☆オマケ☆








「お疲れーぃ!」


 ステージ後の熱気と汗の香りを残しながら、テレビ局のスタジオの廊下から番組を終えた出演者達が続々と自分の楽屋にはけていく。

 男性アイドルユニット『v.i.eヴィー』のオーシとチカは、一緒に出演していた友人でもある俳優の二階堂 ヒカルの肩を気さくに叩いた。


「さぁっすが、俳優さんは度胸が違いますねぇ? キメッキメだったじゃん?」

「明日辺りネットが大変なことになってるんじゃないの?」


 歌手デビューを果たした光の、堂々たる初舞台に先輩として意気揚々と混ぜっ返す。しかし、茶化された本人はステージ直後の高揚からか緊張か、反応がイマイチ良くない。


「……ヒカル君?」


 オーシが首を傾げながら声を掛けると、光はゆっくりと二人に焦点を合わせて顔を覆ってうずくまった。


「あーーーー……やりすぎた感……」


 うぁ、どうしよう、恥ずかしい、と身悶える光に二人は顔を見合わせた。


「だぁいジョーブだって。格好良かったよ?」

「そうそう、日本全国の女の子の心を鷲掴みって感じ?」


 俺等でもなかなかああはいかないわ―、と現役アイドルの二人に笑われる。


「でも意外だったな―。いくら番宣とは言え、ヒカル君がああいうサービスするタイプとは思わなかった」


 光の手を取ってよいしょと立たせたチカに感想を言われて、光は気恥ずかしそうに目を泳がせた。


「……ちょっと、すこーし……かなり? 私情が入っちゃって……」

「え……」


 光の小さな呟きに、オーシがガツッと光の首に腕を回し、廊下の隅に引っ張っていく。傍から見れば、仲の良い若手がじゃれているようだ。


「なになに? 気になるじゃーん? お兄さんにちょっと話してみ?」

「いや、オーシくん同い年でしょ」

「何言ってんの、歌の世界では俺等がせ・ん・ぱ・い!」


 そう言って光はズルズルと二人に楽屋まで引きずられていった。






「で? どういう事?」


 ワクワクと期待に輝く目で二人に見つめられて、光はステージ衣装のまま、ゔっと後ずさった。

 v.i.eの二人とは、同じ年な上に仕事のこと以外の話も普段からしたりする仲だ。


 光は懺悔も込めてボソボソと己の罪を告白した。


「クリスマスなのにさぁ……、恋人とひとっつも会えないから。ちょっといじけてて……。会えないなら、こっちもちょっとくらい公私混同してやろうと思って……」


 今日のステージ、恋人に絶対観てって言ッチャイマシタ。


 最後は何故かカタコトの日本語で言って顔を赤らめる光に、オーシは爆笑してチカはさっきにも増して目をキラキラとさせた。


「まぁじ!? なに!? さっきの公開告白だったの!?」

「ウケる! カメラ目線で『愛してる』って言ってたよね!?」

「やめてーー!!」


 涙目になって笑う二人に光が真っ赤になって耳を抑えた。

 v.i.eの楽屋の中には、笑い転げる二人と、身悶えしてうずくまる二階堂ヒカルというなんともシュールな空間が出来上がる。


 いまだ笑いの治まらないオーシを無視して、チカが痛む腹を抑えながらなんとか尋ねた。


「ひ、光くんの恋人って一般人だっけ? いや、もう惚れ直すでしょ」


 あの二階堂 ヒカルにこんな告白されたらねえ? とチカはフォローしてくれたが、光はメソメソと下を向いた。


「……めっちゃ恥ずかしがり屋なんだよね……口、聞いてもらえないかもしれない」


 ステージに上がっている時は、なんだかゾーンに入っていて、怖いもの無しだったけれど、番組が終わって冷静になってくると自分でも恥ずかしさが込み上げてくる。今まで、仕事でこんな私情を挟んだことなどなかったのに。


 笑い転げて話に入ってこなかったオーシが、あることに気がついて光の左手をとって掲げた。


「チ、チカ! 見て見て! ヒカル君の指輪! これ私物じゃんwww」


 収まった笑いの発作が再び再燃する。


「ヤダ、ヒカル君、仕込みが細かすぎ!」


 どうやっても笑われてしまう状況に、光はもう何もかも諦めて遠い目をした。

 流石に可哀想になったチカが「オーシ、いい加減笑いすぎ」とオーシを諌めてくれて、「でもさ……」と続ける。


「ヒカル君ってこんな事するんだね。あ。いい意味でだよ? 同じ年なのに落ち着いてるからさ、こういう事するとは思わなかった」


 めっちゃ彼女さんの事好きじゃん、と笑ったチカに、光は情けなく眉を下げた。


「うん……。なんか、俺がこういう職業だから、ひとつも恋人らしいことさせてあげられなくて……でも、なんにも文句も言わないから……こう、特別だよって伝えたくて……」


 手を組んで、自分の手を見つめて言う光の頭を、チカはわしゃわしゃと犬にするように混ぜた。


「……伝わったと思うよ? 最高のクリスマスプレゼントじゃん」


 混ぜられてセットの乱れた髪のまま、光は曖昧に笑って、「あー、でもしばらく電話とか出てもらえなさそ」と、トホホとスマホを開いた。けれどそこには、予想外にも咲太郎からの通知が届いていて――


「え……」


 開いたメッセージには、サムズアップのスタンプひとつと『メリークリスマス』の文字。


 咲太郎らしい返しに、思わず言葉を失って、ただ愛しさだけが込み上げた。



 横から光のスマホを覗き込んだ二人が、「……ヒカル君の彼女、オットコ前~」と口笛を吹く。

 クリスマスは会えなかったけれど、絶対に近い内に会いに行こうと、光はスマホを握りしめた。



 ~余談~


 歌番組直後からネットは二階堂 ヒカルのパフォーマンスに大いに沸き、歌唱動画が大量に出回ってドラマは高視聴率を叩き出し、何回も歌番組に呼ばれる羽目になった。番組的には大成功を治めたが、仲間内ではどこに行っても動画のことをイジられる羽目になる光でした。


「もぉーーヤメテっ(ノД`)シクシク」



❖おしまい❖



2025.12.1 了


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アイラブユーを囁いて~きみのとなり。番外編~ 🐉東雲 晴加🏔️ @shinonome-h

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