年の瀬の小僧と坊主
TWIN
霙は誰かの悲しみにて候
「おお、今年も来たか」
半袖に半パンという、『子供は風の子』という謂れ甚だしい。
そんな出立の『冬小僧』が、今年も寺の庭に姿を見せた。
「丁度、芋を焼いてたところだ。食っていけ」
「……」
庭の真ん中に置いた小型の簡易焼却炉。砕いた廃材と落ち葉を入れ、火をつけたところだった。アルミホイルで巻いた芋を、何本か見繕って焼却炉に放り込む。
「最近どんな感じだ? 朝夕の寒暖差が大きいから、お前さんが上手く立ち回ってるか気になってな」
焼却炉を二人で囲むように座る。火が焼却炉を内側から焼き、その温かさが肌に伝わってくる。
「……」
「そうか、お前さんも大変だな……」
最近は天気の神様が色々と不安定で、機嫌をとるのも一苦労だという。
「ん、ワシはどうだって? 心配は要らんよ」
焼却炉の蓋を開け、中の温度にムラができないように鉄棒で掻き回してやる。
「師走はどう足掻いたってやってくるんだ……ワシの名前通り、走るようにしてな。だから商売も上がったりにはならん」
話を聞いていた冬小僧の表情が少し緩んだ。
「……!」
「ん? これは」
空からハラリと舞い落ちてきた、白い花弁。しかし、その花弁は溶けかかりのかき氷のように湿っている。
「……」
「そうだな、天気の神様がまた泣きそうになってるな」
冬小僧はすくっと立ち上がる。ワシはそれを咎め、焼却炉の中から焼き芋を包んだアルミホイルを二本手渡した。
「この霙模様、そう簡単には機嫌もなおらんだろう……持ってけよ」
「!!」
焼き芋を受け取った冬小僧は笑顔を見せたかと思うと、踵を返して走り去っていった。
「やれやれ、こりゃ今晩は大雪になるな」
屋根から雪を下ろす道具を何処に仕舞ったか思い出しつつ、ワシは芋を頬張った。今年は雪が多くなるかもしれんと、大昔の記憶に想いを馳せながら。
〜了〜
年の瀬の小僧と坊主 TWIN @TWIN_SuperSport
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