綺良との交差


妄想の中で、綾乃は倒れた。

両手に力が入らず、血がにじむ幻覚もあった。


だが綺良は否定せず、静かに手当てをしてくれる。

「大丈夫だよ、綾乃」

その声だけが、唯一確かなものだった。


綾乃は夢の中で自分をさらけ出すたびに、綺良の優しさに依存していった。

現実の自分では得られない安心感。

現実の悪夢は、妄想の世界で得られる優しさと正反対に伸びてくる。


「もっと……弱くてもいいのかもしれない」

綾乃はそう思い、夢に身を委ねることで、自分の存在がどんどん小さくなっていくような感覚に陥った。

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