妄想と現実の狭間

昼間の世界は、ただの灰色の時間だった。

就活、精神科、お金の不安――どれも淡く、意味を失った色に変わる。


その代わりに、頭の中の妄想世界は鮮やかだった。

私はベッドにいて、横でリストカットの処置をしてくれる綺良。

「綾乃、頑張りすぎだよ」と手を差し伸べてくれる。

泣きたいときには手を握ってくれ、疲れた身体を休ませてくれる。


だけど夜になると、夢は違った。

綾乃が穏やかな笑顔を思い浮かべても、夢ではいつも違う。

容姿でいじめられ、会社で怒られ――現実の恐怖が夢にそのまま溶け込んでいた。


ノートを手にしたとき、綾乃はある考えに取り憑かれた。

「もし、夢の中で綺良に会えたら――」

夢を記録すれば、少しでも妄想を現実の夢に近づけられるのではないか。


夜ごとに、綾乃は疲弊していった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る