「優しい夢」に逃げたい

いろは あめ

夜の戦場



夜になるのが、怖い。

眠れば休まるはずなのに、私にとって夜は、また明日が始まる合図で死ぬほど嫌いだ。

やりたいこともなにもない。


今日もまた、寝ついて悪夢に引きずり込まれた。

過去のいじめの記憶がフラッシュバックしてくる。


――もう、やだ。

どうして私は、せめて夢の中くらい優しくしてもらえないのだろう。


現実がつらくて死にたくて休職して、家の中で静かに生きているだけなのに。

昼間、頭の中に作った“優しい世界”は、きっと私を傷つけない。

そこには綺良がいて、手を握ってくれて、息を整えてくれる。

私が泣けば、ただ「大丈夫だよ」と言ってくれる。それだけでいいのに。


でも、夢はいつも裏切る。

どれだけ願っても、眠った瞬間に私は崩れた世界の中へ落とされる。


――どうすれば、あの世界に行けるのだろう。


私は、枕元のノートを開いた。

悪夢の内容と、妄想の中でしか会えない綺良の姿を、震える手で書きつけていく。

書けば書くほど、現実と妄想の境目が曖昧になっていく気がした。


そのとき、不意に胸の内に囁く声がした気がした。


「綾乃、こっちへおいで」


顔を上げても、部屋には誰もいない。

なのに、その声だけが、ひどく優しかった。


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