第14話-次の問題

「ここら辺でいい、乗せてくれてありがとう」

「いえいえ。ブラッドフォード様が私たちのためにしてくださったことに比べたら、このくらいどうってことありません」

「当たり前のことをしただけさ……この後、何をすればいいかわかるよね?」

「はい、ブラッドフォード様のことは誰にも言いません。改めて、私たちを救ってくれて本当にありがとうございました」


 クロマー村の村長と手配したおかげで、数時間後には街に戻ることができた。馬車から降りて別れを告げ、俺は圭ブラッドフォードの家に向かって歩き始めた。


 なんとなく覚えている道を歩きながら、自分のした手配について考えた。


「うーん……ローズたちは受け入れてくれるだろうか……」


 狙われているのだから、もう村で暮らすのは安全ではない。ブラッドフォード家の助けがあれば、この街で安心して暮らすことができる。

 ローズしか知らないから、手紙は彼女に渡してほしいと頼んだ。でも、彼女ではなく、彼女の両親に向けて手紙を書いた方がよかったかもしれない。


「いや……やっぱ、あれでいいな」


 何しろ、恥をかきたくなかったのだ。手紙を書くのは初めてだったから……どう書いたらいいのかわからなかった。でも、何のための手紙なのかを考えて、できるだけフォーマルな感じになるようにがんばった。


 結果、構図に集中しすぎて、最後の数文字を書くスペースがなくなってしまった……

 だから、残りは封筒に書いて、その上に印鑑を押した。

 そして、感謝の気持ちとして、自分の持ち物で一番高そうなものを渡した。それで十分だったかどうかはわからないけど……


「まあいいか。済んだことは仕方ない」


 歩きながら周囲の景色を眺め、自分の記憶と照らし合わせてみた。


「ゲームのグラフィックに命が宿っているのを見るのは変な気分だ……」


 ここに来るまでの間ずっと寝ていたから、さらに記憶の整理ができ、すっきりした。

 俺には『異世界フロンティア』というゲームそのものの知識がある。地球でプレイした記憶もある。圭ブラッドフォードの記憶が少しずつ戻ってくる中で、自分自身の人生から思い出せるのはこれだけだった。


 まあ、このような記憶があるというだけで、もう十分だ。何しろこれはこれで都合がいいしい、当時の自分自身の人生があったことを証明してくれるのだから。

 自分の状況を整理した今、俺はこの世界での正式な最初の問題に直面することができる。


 とんでもなく巨大な屋敷の門に着くと、俺はマントのフードを脱いだ。警備員はすぐに俺に気づき、中に通してくれた。

 屋敷の玄関に着いた瞬間、ドアが開けられた。そして執事が他の使用人たちとともに現れ、俺を出迎えた。


「圭様! やっとお戻りになったのですね……ご無事で何よりです」


(まずい……こいつらのことまだ覚えていない)


「あー……うん。みんなを心配させてごめん……ちょっと、予想外なことがあって……それで、今まで帰れなかったんだ」

「何かあったのですか?」

「魔物の襲撃に関することなんだけど……ちょっと長くなるから、詳しいことは明日話す。だからその……まずは、夕食を部屋まで持ってきてくれないか」


「……わかりました。圭様が無事に戻られたことは、みんなにも報告いたします」

「ありがとうご。じゃ、俺は部屋で待ってるから……」


 何とか話題をはぐらかして、圭ブラッドフォードの部屋に直行した。今はお腹がすぎて、いろいろなことを気にする余裕がない。

 ありがたいことに、食事はそれほど時間がかからず、すぐに俺の部屋に送られてきた。

 4日連続で寝ていた俺は、料理がテーブルに置かれてすぐガツガツと食べた。


「あぁー……ようやく生きているという気分だ……料理がおいしすぎる。こんなに早く用意してくれて本当にありがとう……」


 さっきの執事も他のメイドたちも驚いたように俺を見ていたが、気にしなかった。


「圭様……楽しそうに召し上がっていただけて何よりです」

「んん?」


 しかし、彼らの驚きが一転して嬉しそうな表情に変わったのが、ちょっと気になった。


(俺の行動や態度が変わったとき、他の人はどう反応するだろうかと考えたけど……問題はなさそう?)


 これは、俺がこの新しい人生を生き抜くために、まず解決しなければならない多くの問題のうちの一つについてだ。 そう、それは圭ブラッドフォードとして生きることだ。


 彼の体に入ったからには、圭ブラッドフォードがするような適切な行動をとらなければならない。今の俺の状況を簡単に誰かに知られるわけにはいかない。


 ゆえに、問題が発生する。


 地球上では、間違いなく俺は普通の人たちと同じような生活をしていたはず……覚えていないけど……


 それに対して、彼は、異世界であることや魔法という要素を除いても、公爵家の息子という上流社会で生きている。

 基本的なところでは、お互いにまったく違う世界に住んでいたんだ。


 比喩的な意味でも、文字通りの意味でもな。


 彼の立ち位置にふさわしい振る舞いができるほどの器量はないから、少しずつ変化を見せていくのが、俺にできる最善の策だ。

 まあ、いずれにせよ、彼のような振る舞いをするためには、それなりの努力も必要だけどな……

 そうすれば、必要に迫られたとき、少なくとも彼のように対処できるし、誰にも怪しまれない。


(はあ……面倒だなあ……)

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