第13話-約束だから

 魔物の大群が周辺を襲ってから数日が経ちた。

 少なくとも数百人の死傷者が報告され、いまだ行方不明者も多数いる。

 毎年、どこでも普通に起きている悲劇だ。


 大規模な破壊が行われたとはいえ、政府がそれを対処すれば、村の復旧はわずか1週間程度で可能である。

 だから、あんなことがあってもここで暮らしたいという人がいる。


 多くの人命が失われたとはいえ、空き家が出ることで村の人口は再び増加する。この際に、新しい建物を建てるなど、村の発展も期待できる。


 私たちの家は、今回の襲撃で破壊されたけど、このような事態を想定して、村の避難場所の一つ、その隣に家を用意していた。


 母さんは、村が襲われたという知らせを聞いてすぐに家に駆けつけ、先ほど到着したみたい。


「ローズー!」


 私がまだ無事なのを見て、安心した。すぐに駆け寄ってきて、心配しながら抱きしめた。


「母さん……私……」

「うーん。いいのよ、ローズ。手を貸したかったのでしょう……君はそういう子だから……無事ならそれでいい」

「母さん……ありがとう……」


 もうすべて説明したようだから、叱られるかと思ったけど、父さんも母さんも、私が無事なのを見て満足した。

 

 まあ、父さんは叱られたけど……へへっ。


 父さんを叱りながら、母さんにはほっとした表情が見られるから、きっと心配していたんだと思う。

 村が襲われても、ほんの数時間一緒にいるだけで何事もなかったかのように、前と同じように感じた。


 だからその後も、あまり変わらないと思った。

 他の人たちと同じように、事態が収束すれば、またこの村で暮らすことになると思っていた。


 でも……


「ブラッドフォード様が......?」


 帰宅して数時間後、父さんが作ってくれたご馳走を食べて休んでいると、村長さんが大事な用件を持って訪ねてきた。

 ブラッドフォード様はすでに村を去られたから、村長から私たちに伝言を伝えるとのこと。


 ブラッドフォード様の伝言は、魔物の襲撃のこと、そして私たちのことについてだった。このまま村にいると危険だという。

 私たちの能力を考慮し、安全な首都でブラッドフォード家のもとで働くことを提案した。


 ブラッドフォード様の伝言は、その説明を惜しげもなく語っている。しかも、私のことまで書いてある。この伝言に嘘や隠し事はないと感じた。


 しかし、私たちはそれに気づいた……

 伝言のもう一つの意味に。


 これは誰にも言いたくないことだけど、私は同年代の人たちよりもしっかりとしていることを誇りに思っている。

 役に立って、褒められるのが好きだから。

 父さんや母さんに自慢できるような子どもになりたいから。

 だから、がんばろうと思った。もっと大人らしく考えて、大人らしく振る舞おうとした。


 でも……


 魔物と正面から向き合ってみると、結局は大人ぶった演技をしているだけの子供だったことに気づいた。


 やっぱり未熟なんだなって落ち込んだ。


 そして、今……伝言の意味を理解できる自分が嫌になる。


(私たちのせいで……村が襲われた……?)


 それに気づいた瞬間、体が押しつぶされそうになった……息をしているのかしていないのか、自分でもよくわからなかった。


 ただただ……じっとしてしまった。


 足手まといにはなりたくなかった……

 誰かの役に立ちたかった……

 他の人を助けたかった……


 でも……沢山の人が殺されたのは、私のせい……?

 

 なんでこんなこと起こっているの?

 なんで私たちなの?

 なんで私なの?


(なんで……!!)


 そんな皮肉と向きあって、ほんの数秒で、負の感情の渦に落ちてしまった。


 私が気づくことを知ってか、私を励まそうとする父さんの声……私のせいではないと安心させようとする母さんの声……それを聞かせた村長さんを叱責する声が聞こえてくる。


 みんなの声ははっきりと聞こえるけど、それに何も響かない、何も感じない。


 すると、頭を下げた私の視界から、少しだけ膨らんだ封筒がゆっくりと見えてきた。


 ブラッドフォード様が、私にも聞かせる必要があるとおっしゃったから。そして、この手紙を託されたとのこと。村長さんはそう言って、その後は何も説明しなかった。


 封筒の表には、印鑑と一言が書かれている。


  【約束だ。】


「えっ……」


 ゆっくりと手紙開けてみて、内容を読んだ。


【ローズ、お前がしてくれたことに、ちゃんと感謝の気持ちを伝えられなくてごめん。その代わり、俺のくれるものが、少しでもお前のお役に立てればと思っている。今度お会いしたときには、ぜひいろいろ聞かせてね】


 封筒のふくらみは、ネックレスによるものだった。その見た目からして、明らかに高価で貴重なものだった。美しい透明な金色の宝石で、中には家紋が入っていた。


「ローズ、それ……魔石じゃない?」


 ただの貴重な宝石ではなかったみたい。


 魔石は、中に埋め込まれた魔法陣を使い、マナを消費して特定の魔法を使うことができる貴重な道具だ。研究者であるローズの母は、すぐにそれに気がづいた。


「魔石……?」


 ネックレスを母さんに渡すと、それに付いている魔石を調べながら、それが何なのかを説明してくれた。


「これ……内部に【集中魔法】が埋め込まれているわ。これを使い場、マナや魔法をよりよくコントロールし、使用することができる。それに……ブラッドフォードの家紋も入っている……どうしてこんな大切なものを、ローズに……」


「母さん……父さん……お願いがあるの!」


 二人に向かいながら、ネックレスを握り締めた。


(そうだ……これからもっと頑張らないと。立ち止まっている余裕はないんだ。役に立ちたいなら……まずは、自分が努力しないと!)


 ――だって、約束だから!

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