第12話-あがく
「あぁ……いやあぁぁぁ!!!」
さっきまで落ち着いていたのに、明らかに殺意を持っている魔物を目の前にして、ローズは怯えずにはいられなかった。彼女は年相応に大きな声で叫んだ。。
しかし、すぐに――
「地よ、貫入不可能な硬度与え給え【
恐怖からか、それとも生存本能からか、ローズは得意とする地属性の魔法に頼った。
母親から教わった魔法は、防御のためのものだった。ローズは傷つける魔法や攻撃するための魔法は教わっていない。
それでも、この場面では母親が教えてくれたもので十分だ。魔法でオークの視界を遮り、囲うことができれば、少なくとも数秒は身を隠す時間を稼ぐことができる。
しかし、ローズは論理的な判断ができるほど冷静な自分を見つけることができなかった。
「うぉぉー!」
「あぁっ……」
目の前のオークが猛烈な殺意をむき出しにしている以上、彼女には無理だった。
「うおぉ!!」
オークは叫びながら、ローズの作った土壁を激しく破壊し続ける。まるで獲物に迫る肉食獣のように。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
オークが土壁を破壊した瞬間、ローズはその血に飢えた視線にさらされた。
オークが拳を振り上げたその瞬間……
「ローズ!!!」
ほんの数秒の出来事だったが、ローズには何時間にも感じられた。
「父さん……?」
その数秒の間に、ローズに当たるはずだったオークの拳は、代わりに父親が受け止め、背中でローズを完全に守っていた。
二人とも後方に吹き飛ばされたが、ローズの方は父親のおかげで怪我をすることはなかった。
「ローズ……逃げろ……」
せめて逃げる隙を与えたいローズの父は、必死に立ち上がっていた。その姿に、ローズは自分への怒りがこみ上げてきて、冷静さを取り戻した。
「……!
「ローズ……」
ローズは、今の父親の状態では、もうオークを相手にするのは無理だとわかっていた。だから、彼女は時間を稼ぐことにした。
(お願い! だれか……父さんを助けて!)
「うぉぉ!」
オークが土壁を攻撃している間、ローズは父を引きずってオークから遠ざかる。オークが壁を破壊したとき、彼女は壁を再現する。
(うぅ……)
しかし、案の定、この繰り返しはわずか1分しか続かなかった。やがてローズはめまいを覚え、このままではマナが足りなくなることに気づいた。
「ぁ……」
頭がクラクラして、父親の重さに耐え切れず、よろめきながら倒れていく。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
オークが大きな声で叫び、彼らの破滅を告げているようであった。ローズの距離をいとも簡単に追いつき、再び第一撃を振りかざす。
「うぐっ!」
ローズの父は咄嗟にローズをかばい、その攻撃を一身に受けた。このまま死んでしまってもおかしくはない。
「ローズ……早く逃げろ……」
この絶望的な状況から、ローズは自分の努力や祈りがどこにも届いていないことを感じていた。
もうどうしたらいいのかわからなくなってしまった。
目の前で父親が死んだ瞬間、ローズは自分を見失いそうな気がした。
「うおお!!!」
でも、そのすぐ後に――
「え……?」
彼女の父親への最後の一撃となったはずのオークの拳が、目の前に見えない。そこにあったのは……
「だれ……?」
見たこともない男の姿であった。
口からは血が流れ、苦しそうな表情をしている。しかし、ローズが視線を合わせると、すぐに彼の顔は安心させるような笑みに変わった。
(あぁっ……)
祈っていた通りの人が現れた。。
魔物から守ってくれただけでなく、その人は彼女の父親を癒して救ってくれた。ローズはこれほどまでに感謝したことはなかった。
二人が助けてくれた人にお礼を言おうとしたら、その人が倒れているのを発見し、やがてその場で気絶してしまった。
程なくして、村は助かったと言う者が現れた。
多くの魔物が倒されただけでなく、残った魔物もやってきた騎士たちに対処されている。
ローズたちは、多くの村人が助かったのは、あの男が現れる前に複数の魔物を倒していたからだと知った。
そして、その人物が圭ブラッドフォードであることを。
ブラッドフォードという名前を聞いた村人たちは、どうすればいいのか不安になった。
村長の命令に従い、まずは彼を安全な場所に運び出し、彼が目を覚ますのを待つことにした。
ローズは、村人たちがこの事件の処理に追われていることを知り、自ら志願して彼の監視を担当することにした。
しかし、しばらくして、ローズは彼の様子がおかしいことに気づいた。
「どうしてこんなに汗をかいているの……あっ! すごい熱!」
ローズは彼の世話をしようとしたが、その数分後……
「え……っ!」
男は血を吐きながら、状態が悪くなっていった。
「血……!? なんで!」
ローズはパニックになったが、めげずに看病を続けた。
父親と村長が来たときも、最初はパニックになったが、すぐに行動に移した。
他の人たちは彼に何が起こっているかを知っているようなので、ローズは彼らの言うことに耳を傾け、それに従った。
しかし、圭の容態は一向によくなる気配がなかった。
自分も村人たちも真っ白になるくらい血を吐いてる。
しかし、それでもローズは懸命に、彼の看病をやめなかった。
村人たちは、圭の状態について様子見をした。
ローズは彼の世話をしながら、こう思った。
(なんで……なんで魔物たちに立ち向かうことができたの? こんなに苦しんでいるのに……なんであの時まだ笑っていて、私たちを救えたの……?)
ローズは、彼らのために限界まで頑張る彼のことを、無謀だけど勇敢で強い人だと思った。
彼女は、彼の人を救うための不屈の精神と粘り強さにあこがれを抱いた。見知らぬ人たちのためにここまで苦しむとは。
(それに比べて……私は……)
振り返ってみると、ローズは自分の行動と圭の行動を比較して、自己嫌悪に陥っていた。
「なぜ、私は何もできなかったの……」
と考え込んでいるうちに――
「……?」
ローズは、圭の手が何かに手を伸ばすような動きをするのを見た。
彼をよく見ると、ローズは思わず手を伸ばした。
(なんで……そんな顔してるんですか……?)
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