第11話-ローズの悔しさ

(どうして……どうして私は、何もできないの……)


 ローズは弱い自分を嘆いていた。

 目の前で自分の父親が魔物に殴られているのに、何もできないでいる。

 自分の行動が全て無駄でしかないことが嫌だった。


 それ以上に、自分がいたから父親が殴られたことが嫌だった。


 もし自分が逃げられたら、あるいは自分が落ち着いていられたら、自分の父親は傷つかずに済んだはず……と、彼女はそう思った。


(どうして......)


 突然の魔物の大群の襲来は、ローズの人生を揺るがした。

 自分がいかに無知で世間知らずであったかを思い知らされた。

 自分の人生がどうしようもなくひっくり返ることができることを恨んだ。


 ローズは家族と一緒に、王国の北側、城壁の外にある一番近い村に住んでいる。

 普段魔物が出現する場所からは離れているため、村の人口は平均以上である。


 しかし、魔物に襲われることがないとは言い切れない。

 実際、警備兵は魔物の出現場所や巣に近い集落を優先するため、彼ら地域は魔物の大群に襲われやすい。


「魔物だ! 村の南南西側に少なくとも10体以上いるぞ!」

「多いな……念のため、シェルターで全員を誘導する人を何人か呼んでおいてくれ。武器を持ってる人はついてきて!」

「「「おー!」」」


 そのため、村人たちは自分たちで魔物対策を考えるしかなかった。

 その点、ローズの両親は魔物に詳しく、対処する能力もあるから、二人の協力は非常に貴重である。

 村の治安維持には欠かせない存在だった。


 魔物の大群が現れたとき、村人たちはまずその対処にあたった。

 近接武器を持っている者は前方に、遠距離武器を持っている者は後方に、そして魔法が使える者は他の者の避難を先導した。

 皆、村が定めた適切な手順に従った。


「まずい! 魔物が……あちこちからやってくるぞ!」


 四方八方から現れる魔物に村人たちは混乱し、パニックに陥った。その直後、何人もの村人が魔物の攻撃を受けることになった。


 事態は村の力ではどうにもならないほどエスカレートしてしまった。


 村人たちが魔物に全滅させられる前に騎士団が到着するかは、時間との勝負になった。いずれにせよ、多くの村人が殺されるになることは間違いない。


 それでも、できる限り魔物に対処し、人を救おうとする者たちもいた。ローズの父もその一人だった。

 その時、ローズの母親は村にいなかったので、ローズは父親から他の人たちと一緒に避難するように言われた。


「ローズ、みんなと一緒に避難して」

「でも、父さん、私――」

「ごめん、ローズ……一緒にいられなくて。でも、心配するな。後でシェルターで会おう、な?」

「……うん」


(違う……私は……力になりたいの!)


 村人たちがパニックに陥ったとき、ローズは親に倣って人を救おうと思った。


「大丈夫……こんな時のために、母さんは魔法の使い方を私に教えてくれたんだ!」


(少しでも、役に立ちたい!)


 避難所に誘導する人がいる中、取り乱しすぎて動けず、ただパニックになっている人たちを彼女は助けた。


「落ち着いてください。避難所には他の人がいて、安全な場所ですから、あわてずに避難してください」

 

 ローズが声をかけると、最初は驚いていたが、すぐに自分を取り戻した。

 冷静に人を救おうとしている子供を前にして、パニックになり続けるのは耐えられなかった。

 そうして、みんなと一緒に避難所へ駆け込んだ。


 ローズは同じことを続けた……魔物が近づいてくるのが見えるまで。


「……このまままっすぐ走って、シェルターまでついてきてください!」


 魔物に避難しようとする村人たちの流れを乱されないために、彼女はとっさの判断で魔物の気をそらすことにした。

 魔物たちの注意が自分に集中するまで、近づくことを選んだのだ。


「「「おぉー!」」」

「!!」


 そして、彼らが彼女を追いかけ始めたら、走って隠れ始めた。

 何度か方向を変えた後、彼女は近くの家の中に隠れることにした。建物が魔物の視線を遮った瞬間、彼女は家の中に入った。

 彼女は静かに魔物たちが去るのを待った。


「……もう大丈夫だよね?」


 魔物たちの足音が聞こえなくなってから数分後、ローズはもう近くに魔物がいないことを祈りながらドアをゆっくり開けた。


「……っ!」


 しかし、そこにはゆっくりと歩いているオークが一匹いた。誰かが隠れていないか嗅ぎ回っているようだった。

 ローズはすぐにドアを閉めようとしたが、オークの方が早く気づいてしまった。


「うおおおおお!」

「!!」


 オークが突進してくるので、ローズはさらに家の中に入ってきた。しかし、あっという間にオークはドアを破って彼女に追いついてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る