第9話-マナ欠乏症と……

 マナ欠乏症とは、体内に一定量のマナが存在しない場合に発生するもの。

 多くの場合、現在の許容量を超えて消費してしまうことが原因だ。

 死に至ることもある病気である。


 この病気にかかると、たいていの場合、まず意識を失う。その後、発熱や筋肉痛など、個人によってさまざまな症状が出る。でもその三つの症状は一般的なものだ。


(なるほど……上級な治癒魔法を1回使っただけで倒れたのは、こういうわけだったのか。意識していなくても、俺の体は限界に近づいていることを知っていたから)


 その用語を聞いて、俺はそれについて思い出した。


 ゲームの中で例えれば、マナが一定量以上減ると発動するデバフだ。移動速度低下、ステータスの一時的な低下、間隔の麻痺などのデバフという形で現れる。


 その法則に従えば、物理的にこの世界にいる限り、次のような反動がリアルな形で現れ、ダイレクトに感じられることになる。


(画面上ではゲームの一部として面白くて、楽しむ要素だが……実生活じゃ、面倒極まりないなぁ、はあー……)


 マナの補給は、自然に回復するのを待つか、マナポーションのようなゲームアイテムを使うことができる。

 しかし、この場合、どれを使っても、あるいは光魔法で体力を回復させても、効果はない。

 待つしかないデバフなのだ。


 しかし、当然ながらマナを回復させなければ、このままでは苦しみ続けてしまう。それゆえ、俺にマナポーションが注入された。


 受けた怪我や、スタミナを少しでも回復させるためにヒーリングポーションも使ってくれた。しかし、案の定、俺の体調にそれほどの差はなかったらしい。


(でも……やっぱり、可笑しい。まだ、辻褄があっていない……)


「最善を尽くしてブラッドフォード様の面倒を見たのですが……酷い状態は緩和される兆しがなかったんです。だから――」

「待て、ロバート。あとは私が説明するから」


 部屋にいた全員が、聞こえてきた声の方を見る。その声の主は、ドアをノックする仕草をしながら中に入ってきた。


「ん?」

「突然入って申し訳ありません。ドアが開いており、外に差し掛かった際に会話が聞こえたので。はじめまして、ブラッドフォード様。私はクロマー村の村長、ジェドです。目が覚めたようで本当によかったです」

「……こちらこそ。ちゃんと挨拶できなくて申し訳ない」

「いえいえ。では……ロバート、ローズちゃんを家に連れて帰って、ちゃんと休ませてあげて。もう数日、ちゃんと休んでいないんだから」


「え?」

「ローズちゃんはずっとブラッドフォード様のお世話をしていたんです。私たちは他の用事があって、ローズちゃんに頼るしかなかった……本当に一生懸命にブラッドフォード様のお世話をしてくれたんです」

「……」


 驚きを感じずにはいられなかった。

 しかし、この少女が強い義務感を持っていて、大人な考えを持とうとしていることを考えれば、納得がいく。

 俺はすぐに彼女に微笑みかけ、再び感謝の気持ちを伝えた。


「ローズ……本当にありがとう」

「!!  い、いいぇ、その…………はい……」

「……ローズ?」


 彼女の父と俺は、何か違和感があるような気がしていたが、それがわからなかった。


(まさか……いきなり名前で呼ぶなんて、ちょっと不謹慎だったか?)


「じゃあ、ロバート、娘の面倒をみてやれ。志願したとはいえ、彼女に頼ったのは申し訳ない……彼女がやったことは必ず褒めてやるんだぞ。あとは任せろ」

「はい。ローズ、家に帰ろう。母さんも今来たばかりで、とても心配していた。早く帰れないと……暴れそうで心配だ……」


「えへへっ……母さんらしい」

「ローズちゃん、お疲れ様だった。しっかり休んでいてね。よく頑張った!」

「……うん!」


 ローズは撫でられたり褒められたりして嬉しそうだった。


「その……ブラッドフォード様……ゆっくり休んでくださいね……改めてありがとうございました。失礼します」

「ああ、ゆっくり休んで」


(帰る前にちゃんとお礼を言ってくるか)


 ローズと父親は部屋を出て行き、村長と俺の二人きりになった。

 何も問題はないのだが、俺と二人きりで話したがっているように思った。


「では……村長、まずは先ほどの話の続きをしてから……次の話に行かないか?」

「……さすがに気づきましたか。わかりました、それでは……」


村長は席に着き、真剣な表情と口調で話し始めた。


「ご存知の通り、ブラッドフォード様のお世話の仕方について指示を出したのは私です。元冒険者である私は、何が起こっているのかすぐに理解できた……と、初めはそう思っていた」

「……」

「ブラッドフォード様はマナ欠乏症に陥っていた、それは確かです。しかし...ブラッドフォード様の状態は……ただ苦しんでいるというには、あまりに異常でした。なにしろ、血を吐くようなひどい症状が続いていたのですから」


「やっぱり……おかしいと持ってい…………待て……今、なんて言った? 血を……吐く?」

「はい……今日まで血を吐いていました。ブラッドフォード様の異常な状態も、今日に限って良くなったのです。前は本当に顔色が悪くて、このまま死んじゃうんじゃないかって心配していました」

「な……」


(なんじゃそれ!? どういうこと!? うわ、こわ! 数日前からずっと血を吐いている!? こわいこわい!)


 何が起こっているのかわからない。

 でも、少なくとも、俺に対する彼らの極端な反応や考え方は、これで納得がいった。

 どうやら、本当に危険な状態だったようだ。


(しかし、なんで俺は――)


 そう自問自答の最中、あることが頭に浮かんできた。確信は持てないが、なんとなくそれが答えのような気がした。


(まさか……圭の呪いのせいで?)


 謎の原因と謎の呪い。二つが関係していてもおかしくはない。


 あの時、無理をしたら何かまずいことになりそうな予感がしたのだが……なるほど、こういうことだったのか。

 ううっ……次々と行動とるのはいったんブレーキを踏まないと……


「……思い当たることがあるようですね」

「……本当に申し訳ない」

「お気になさらず。重要なのは、ブラッドフォード様が今、回復していることだけです。私たちはブラッドフォード様にお世話になっているのですから」


「……俺もだがな」

「私たちは当然のことしただけです。ブラッドフォード様が来てくれたからこそ、死傷者や被害が最小限に抑えられた……それは紛れもない事実です。村長として、ブラッドフォード様には本当に感謝しています」

「……なら、来てよかった」


 まあ、自分が何をしたのかさっぱり覚えていないけどな。

 まるで誰かの手柄を横取りした気分だ……

 なるほど、これがその感覚か。


    ……ちくちくするな。

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