名もなき銀の花、月夜に墜ちて

月に照らされた白い浴場。
鏡の向こうに映る少女は、誰かのために着飾られ、誰かのために肌を洗われる。
彼女の名も、記憶も、意志さえも――霧のように掻き消えていた。

「私は、誰?」

そう呟いた瞬間、世界は軋み、少女は運命の鎖を断ち切る。
決められた婚姻、与えられた役割、未来に待つ死の気配。
すべてを拒絶し、水面を越えて逃げ出した少女は、
砂漠の盗賊ラズールの腕の中へ堕ちてくる。

神の落とし物か、罠か、あるいは災厄か。
少女の腰に刻まれた「花押」が意味するのは、王の所有の証。

記憶を持たぬ銀髪の女と、理性と怒りに揺れる男。
出会いは静かに、けれど確実に、砂漠という世界の運命を変えてゆく。

これは、名もなき少女が「自分」を取り戻すまでの物語。

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