第18話 オルディナ学園の入学式
『ミュゼと四人の貴公子たち』を思い出していた。作業系恋愛ゲームで、剣と魔法の世界ではあるけど、魔王も、災厄も起きないゆるふわ設定。冒険、生産、錬成、たまにイベントを繰り返してステータスを上げ、攻略キャラの好感度を上げるというゲームだ。ハーレムエンドはなく必ず、二年目から分岐する。一年目のステータス上げでルートが決まり、二年目はその攻略者と仲を深めエンディングへと向かう。
この一年で、何もなければコンラートは平和に学園生活が送れる……はず。
オルディナ学園の入学式。
家族も招待されるため、俺も参加した。なんと、コンラートは主席入学だった。
成績順で決まるクラスも、筆記S、魔法S、実技SSの成績で文句なしのSクラス入りだったそうだ。
毎日、コツコツ勉強はしていたし、剣の稽古も欠かさなかった。領主としての仕事もある中でコンラートは努力を重ねてきた。
「さすが兄上」
新品の式典服に身を包み、壇上で素晴らしい挨拶をするコンラートを見上げていると、こみ上げるものがあった。周りにキラキラのエフェクトがかかっているように見える。
「私が育てました」
「いや、違うでしょ」
俺の隣で冷静に突っ込むのは、クレバだ。
「それにしても、入試ほぼ満点だったらしいよ」
「俺の兄上ですから。誰よりも努力して、それを当たり前だと思う人なんです。立派な領主として、人の模範でありたいと思う人なんですよ。入試なんてただの結果です。兄上の素晴らしさはその生き様にあるんです」
鼻を膨らませてちょっと早口でまくし立てると、クレバが若干引いている。
「Sクラスは学習内容が高度でね。五人までって人数制限があるんだよ。入学者数が一五〇人だからこのクラスに入るだけでも名誉なんだよ」
「知った風に言ってますね」
「私も三年間Sクラスだったからね」
自慢か。無視しよう。
「あ、入学祝賀会に移動するみたいですよ」
「今、無視したね」
クレバは、ため息をついて、エスコートするように手を差しだす。俺はその手を取って立ち上がった。
入学祝賀会はガーデンパーティーのようだった。
クレバは、持ち場があるらしく、名残惜しそうに俺から離れていった。
場所は学園の中庭。
緑の芝生に、植栽には青い花が咲いていた。白いテラステーブルが並べられ。奥には料理や、飲み物が準備されていた。
生徒たちは、クラスごとにテーブルに着席している。
「兄上!」
兄上は緊張した面持ちで、テーブルについていた。一緒に座っているのは同じSクラスの四人だろう。
「へー。コンラートの兄弟ですか?」
「弟のルシウスだ。ルシウス。こちらは国立魔法研究所薬草学の研究員 セレーノだよ」
コンラートしか見ていなかったから、声を掛けてくる人を驚いてじっと見つめてしまった。
攻略対象者だ。黒髪 黒目という日本が懐かしくなるカラーリングだ。
コミュ障の薬草バカだったはずだが、案外社交的な性格をしているのだろうか。
「初めまして。ルシウス・ノクタビアです」
「僕はセレーノ・サルヴィム。よろしくね。セレーノって呼んで」
「セレーノさん」
飛び切り笑顔を作って挨拶をした。
「あは、かわいい。紹介するね。こっちは ジュリアン。マルクス、ロイエルだよ。王子さま 脳筋 眼鏡で覚えるといいよ」
セレーノの紹介は雑だった。ああ、覚えてるこの顔。全員攻略対象者だ。
「そんな雑な紹介あるか! 俺は実技でコンラートと対を張るマルクス・モロッシオだ」
赤い髪のマルクスが声を上げる。
「まったく。眼鏡は俺の能力とは関係ないですね。私はコンラートと筆記で同じ点数だったロイエル・ファジアンです」
青い髪のロイエルが、眼鏡のブリッジを押し上げてセレーノをにらむ。
俺が呆然としていると、ジュリアン王子がにっこりと笑った。金色キラキラの王子様スマイル、ミュゼ四キャラでは不動の人気ナンバーワンだ。
「私たちは幼馴染でね。いつもこんな感じなんだ驚いたろ? ちなみに私は入試で次席だった、コンラートとは寮で隣の部屋なんだ」
コンラートと呼ばないと死んじゃう病気の人たちなのだろうか。
確か彼らはジュリアンの側近候補として、王宮内で過ごしていたという設定だった。
こんな出来上がった人間関係に、コンラートは入っていけるのだろうか。いや、入ったら……攻略される?
難しい顔をしてコンラートを見上げると、コンラートはふわりと優しい顔をしてうなずいた。
「私も驚いたよ。でもジュリアン殿下が……ジュリアンが良き友でありたいと言ってくださってね。私も皆に倣うことにしたよ。ね、ロイエル、マルクス、セレーノ」
「「「ああ、コンラート」」」
「へー……」
視線を四人にめぐらすと、頬を染めてコンラートを見つめていやがる。やばい。ここ肉食獣の檻だ。ふわふわ恋愛脳のサルたちだ!
コンラートを連れて逃げよう。
ブラコン転生者はゆるふわ恋愛BLゲームの世界を攻略する 立木砂漠 @deserttree
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