第17話 秋の討伐

魔獣討伐は年に二回行われる。主に演習の意味合いが強い「春討伐」と、間引きの「秋討伐」だ。

春討伐は騎士団の実力を世に知らしめるために行われる。一方、秋討伐は増えた個体を間引き、魔獣暴走を防ぐための討伐だ。


そして、今は秋討伐の時期だ。

オルディナ学園は九月に入学式があるため、少し早めにコンラートがいる八月中に秋討伐しようという話になった。


俺はコンラートの雄姿を目に焼き付けるべくこの討伐に参加することにした。

ルシウス隊は騎士であるジャコブとサイラス。魔法具技師であるパオロとマルコ。おまけにオルディナ学園が休みだからと、居着いてしまっているクレバという顔ぶれだ。今回は辺境騎士第三部隊に編成されている。サイラスが副隊長をしていた隊だ。


森に生息する大型個体魔獣は様々いるが、その頂点にいるのが竜種と呼ばれるドラゴンだ。体長は人の三倍から四倍ほどあり。皮膚は硬い鱗に覆われ、鋭い牙と、爪を持つ。火 風 水 土と、魔法の属性と同じだけ亜種がいる。

ノクタビア領の森には主に水と土のドラゴンが出現する。

余談だが、火山地帯には火のドラゴン、高山地帯には風のドラゴンなど生息地によって出現するドラゴンは変わる。


ゲームではドラゴンを何度か討伐したことがあるから、俺にも知識がある。

魔法の相性があって火ドラゴン相手なら、水魔法とか、水ドラゴン相手なら土魔法といった具合に弱点が用意されている。それでもドラゴンは強くて、ゲームでもボス扱いをされ、事前のレベル上げと徹底した下準備が必須だった。


そしてコンラートだが、なんと彼は、四属性の魔法を操る魔剣士だった。父たちもそうだったから遺伝だろう。

引き締まった表情でこの領でも珍しい白いスレイニブルを乗りこなし。白銀の鎧と、辺境伯家当主に伝わるラグナの剣を佩く姿は、ほれぼれするほどかっこいい。


今日のコンラートは絶好調だ。

もうすでに、一目鬼サイクロプスと、豚王オークキングを倒している。


そして、今は最後の大物、水のドラゴンとエンカウントしている。

見上げんばかりの水のドラゴンは、視線鋭くこちらをにらみつけていた。


「ルシウス。危ないから遠くへ……下がっておくんだよ」


コンラートはそう言うと、片手でスレイニブルを操り、ドラゴンとの距離を詰める。サイラスは追従して剣を抜いた。ドラゴンは威嚇するように咆哮を上げる。水のうろこがキラキラと光を反射し視界をちらつかせた。

「行くぞ!」

「はっ」

コンラートの掛け声にサイラスが答えた。コンラートが剣を振りぬくと、大地から土の柱が幾本も生える。それがドラゴンの腹や、翼にもかすめ。巨体はたまらず地団太を踏んでいた。大地が地震のように揺れ、ドラゴンのしっぽが辺りの木々をなぎ倒す。

サイラスはすぐさまドラゴンの足の腱を切った。ドラゴンはその場にうずくまる。

すかさずコンラートは剣を払い。正眼に構えた。


ドラゴンが口を大きく開き、水を吐こうとした時だ。

「コンラート、足場を作る!」

サイラスが叫んだ。

コンラートはすぐに跳躍し、サイラスの作った土の柱を足場に器用にトントンと、駆けあがっていく。息の合った連携だ。ドラゴンはその俊敏な動きについていけず、吐き出した水はコンラートのいた足場を壊していく。

そして、まっすぐと振り上げたラグナの剣はドラゴンの顎に刺さる。コンラートは力をこめ喉元まで切り裂いていった。咆哮は消え、苦しそうなうなり声が響く。剣を抜くと傷の隙間から、水が零れ落ちていった。


コンラートが剣の雫を払って鞘に収めたときにはドラゴンは絶命し、光の粒子となっていた。倒れた場所には、鱗や爪、牙……レアアイテム。

コンラートと、サイラスはハイタッチをしてお互いをたたえあう。


「おお!竜の瞳だ」

騎士たちが嬉しそうにそれを掲げて見せてくれた。

ゲームだと、クリティカルを当てないと出ないレアドロップだ。

「すごいです兄上!サイラス」

「ありがとう」


「はじめて、辺境伯騎士団の討伐を拝見させていただきましたがすごい。二人の連携は素晴らしいですね。無駄のない魔力操作と、身のこなし。相手の急所を的確につく勘の良さ……素晴らしいです!」

クレバも興奮して、よくしゃべっている。

だが兄上は少し浮かない顔で俺たちを見ていた。

「クレバさん、ルシウスの護衛はジャコブにお願いしたはずだが?」

「ええ、ですが私はルシウスの側がいいです」

なんだか火花が散って見えた。

「ジャコブには、討伐に向かってもらった。稼ぎ時だからね。私は気にしないで。兄上はサイラスと討伐に専念して」

「……なんで、そんなことをいうの?」

珍しくコンラートは不機嫌な声を出した。そのままサイラスに視線を送り、眉間にしわを寄せる。

でもなんだか、コンラートが俺に焼きもちを妬いているようで、ちょっと嬉しいなんて言ったら怒られるだろうか。

クレバは俺の前に出ると、コンラートに向き合う。

「安心してください。こう見えてそれなりに強いので」

クレバはそう言うと、弓を構えてシュッと放った。その先には、騎士にとびかかろうと身を低くしたコボルトがいた。矢を受けたコボルトはすぐに光の粒子となって消える。

ショップ商会の仕入れで魔獣討伐には慣れているという。クレバが得意なのは、風の矢だった。

「ねっ」と言わんばかりに笑顔を向けるクレバにコンラートはぎゅっと眉間にしわを寄せつつうなずいた。


「さあ、兄上。私たちのことなど放っておいて、二人の連携を見せてください」

「……分かった」

しぶしぶそうだが説得できたみたいだ。


わざわざ、二人で行動させるのには理由があった。この討伐でぐっと仲良くなってサイラスと、コンラートがくっついたらいいなと思っていた。そうすれば入学前に憂いを晴らせるのに……と。

だが、思う通りに行かないのが世の中だ。この二人はもともと仲が良かったから、特別進展することは無かった。


だが秋討伐は良い収穫になった。財源が潤っているおかげで装備もいきわたっていたし。回復薬の泉のおかげで、例年よりもずっと被害が少なかった。これで魔獣が狂暴化するこれからの季節を無理なく過ごせるだろう。




それからコンラートはオルディナ学園の入学準備に忙しくなり、顔を合わせる回数も少なくなった。

結局、コンラートはオルディナ学園へと向かった。

「いい縁を見つけてくるからね」と、呪文のように唱えながら。

その背中をサイラスは黙って見つめていた。


ヘタレサイラス!ヘタレコンラート!

……でも他責な俺が一番のヘタレだ。



新学期が始まるということは、クレバともお別れだ。

「ねえ、あのセリフ言ってよ」

「え?ああ『ショップへようこそ、欲しいアイテムを言ってね』」

「ふはっ。ほんものだ」

ああ、ほんとにこの人、ゲームの人なんだなって思う。ぎゅっと抱きつくと、頭をぐりぐり撫でられた。

「クレバ。兄上をよろしく」

「ああ、ルシウスもたまには会いに来てね」

毎日一緒にいたせいか。妙に寂しかった。気合を入れて離れると、名残惜しそうに「じゃあね」と王都へ帰っていった。


恋愛BLゲーム「ミュゼと四人の貴公子たち」が始まる。

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