第9話 問題点を洗い出そう

ルシウス隊はコーヒーに続き。チョコレートの錬成も成功した。

まさか。粉砕しすぎると逆にざらざらするなんて知らなかった。日本のチョコレートメーカーへのリスペクトが止まらない。


次に必要なのは販売ルートだ。

一般的なのは商業協会に登録し、販売権を得ることで販路に乗せられる。うちは騎士団が販売権を持っているので、ルシウス隊は騎士団の部門の一つとして売ることになった。


だが、騎士団の帳簿を開いて驚いた。

ラム酒の売上利益が本当に微々たるものだったからだ。

数字を拾ってみてわかったが、販売価格から引かれる諸経費が全体の6割を占めていた。つまり、売り上げとされるのは4割。そこから、維持費、人件費を引くと利益は2割にも満たない。

マジでこれで販売してたのか。酒を売っていたのに金がないと言っていたのはここに問題があるような気がする。


だが、まだラム酒自体がまずいから売れないという懸念が残ったため。ラム酒づくりの工場を見学することにした。

ジャコブさんが言うには、騎士として働けなくなった人の再雇用先であり、ここがあるので引退後も安心なのだそうだ。ならなおのこと、しっかり利益の出る施設にしなければならない。


工場責任者の案内で設備を見て回った。

騎士団と聞くと、脳筋おおざっぱなのかと思いきや、性質は生真面目で規律重視の素晴らしい働き手だった。確かにそうでないと討伐中にうっかりケガや、危機に見舞われてしまう。そういう職人肌の人たちだからこそ、ラム酒づくりは向いていたのだろう。

場内は清潔に整頓されていて、ピカピカに磨かれた魔法具の蒸留器が並んでいた。できあがったラムは地下の温度管理がされた倉庫に保管され熟成される。木樽もここで作っているそうだ。

「ああ、なるほど。森があるから樽の木材もそこから持ってこれるのか」

ラム酒造りはこの地域に向いていると思った。

こんな風に亜熱帯な気候に合った商品があるとは……つくづくこの世界に、ここの人たちは生きているのだと思った。


「糖蜜を作るとき、できる結晶が砂糖なんだけど」

「あれは、ゴミやら、皮やらが混じって食用には向かんよ。大量に出てくるから絞りカスと一緒に粉砕して平原に撒いている」

それは良い肥料だ。糖蜜竹が平原に生い茂るわけだ。ラム酒を作るという目的のため、ジュースと糖蜜以外のものはいらない。生真面目さが一周してもったいないことをしていたようだ。

「じゃあ、こんどから。その結晶の方は俺が買い取るよ」

「それはありがたいが」

責任者とは、あとで契約を結ぶ話をした。


おかげで、砂糖の原料はそういった経緯で手に入れることができた。


まぁ、結局何が言いたいかというと、騎士団が作るラム酒は思った以上にクオリティが高かったということだ。これは、帳簿の記載事項以上に何かおかしいところがあると踏んだ。


関係者を締めあげるのは騎士団がやってくれた。

調査の結果、騎士団印のラム酒は、エルド地方でレルク商店の倉庫へ運ばれ一割は騎士団印のまま、九割はレルク印に差し替えられて売られていた。

王都ではレルク印のラム酒は、高級料理店にも納品されるほど有名だった。なんと売値は騎士団が販売した金額の二十倍。


さすがに、この調査結果を見たコンラートは怒りの表情を浮かべていたし。騎士団長は怒りのオーラで髪の毛を逆立たせて燃えそうだった。


ということで、コンラートから正式にこの件を任された俺は、騎士団印のラム酒をレルクに卸さないことを決めた。

騎士団の生真面目さをあざ笑うような、エルド地方のレルク伯爵の所業に俺は怒り心頭なのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る