第8話 ルシウス隊、本格始動
ルシウス隊は領主直轄の事業ということになり、今日は事業計画を立てて持ってきた。
さしあたってのプレゼンである。
「これがこーひー?」
コンラートは一口含むと、少し眉を下げた。
「真っ黒だし、思ったより苦いね。でも、すごく芳ばしくていい香りがする」
「はい。唯一無二です」
でも、やはり初めてだとブラックはとっつきにくいのかもしれない。
「あの、兄上。こちらはどうですか?」
差し出したのはカフェオレだ。砂糖とミルクを足してある。
「あ、おいしい」
コンラートが目を細めるのを見て、俺は鼻を膨らませる。だって、うれしいから!
「隊員は情報漏洩の危険を避けるため、少数精鋭で進めようと思います。魔法技師隊からは、パオロさんと、マルコさん……」
「ああ、二人とも説得できたんだね」
「はい、俺がかわいいので」
キリッと言ってみた。
「そっか」
コンラートはうんうんとうなずいている。
「騎士団からは、サイラスと、ジャコブさんを招集しました」
「サイラスが?」
珍しく兄上が聞き返してくる。
「はい。サイラスはどうやら、どうしても欲しいものがあるそうです。それで、俺たちの隊で功績を上げて、それを手に入れるのだと……」
意味深に視線を送ってみたが、コンラートは分かりやすく沈んだ表情になった。
「騎士団から引き抜いてもいいでしょうか?」
「あ……うん。サイラスがそれを望むなら……」
あーそんな顔するなよ、ここがBLゲームの世界だって思い出すじゃないか。お互いの話になると、とたんに二人とも態度が思春期のように変わる。コンラートは十四歳だし、サイラスは十八歳だから思春期なのかもしれないけども。
ただでさえ、気の合うパオロとマルコがたまに甘酸っぱい雰囲気を出して砂糖を吐きそうなのだ。
俺は甘さを中和させるためにコーヒーを飲む。おいしい。
「安心してください。ルシウス隊は領主直轄ですので報告はサイラスが来ます。討伐の時はお返しするので」
「ん。わかった」
いや、そんなかわいい顔で笑わないでほしい。コンラートって実はわかりやすい人だったんだな。家族である俺の前だからだろうか。甘いなあ、やっぱ俺にはコーヒーが必要だ。
砂糖は錬成するものの、砂糖として売るのはやめた。この世界、砂糖は貴重なものとされているため、高値で取引されている。それを安い値段で売るようになれば、それだけ利益が減り、価値が下がる。需要は増えるだろうが、ここでは少量しかつくれないため生産が追い付かなくなれば、すぐにクレームになるだろう。破綻が目に見えていた。
なら砂糖は少量で、価値を下げずに売りたい。
コンラートは事業計画書に目を通して、うなずいている。
「いいと思う。この事業。新しいことだから、もう少し段階的に進める案はあるかな」
もうきりっとしていて、領主の顔をしていた。この人はもう五年も領主として働いている。家令のファサムや、地方の伯爵たちが助けてくれているとはいえ、この重い責任をずっと背負ってきた人なのだ。
「はい、細かく報告します……サイラスが」
コンラートは驚いた顔をした後、柔らかく笑った。
以前、コンラートは『学園でいい縁を結びたい』と言っていた。それは政略結婚的な意味も含まれているのだろう。俺は日本の感覚が残っているから、真面目過ぎるコンラートの生きづらさを感じた。
コンラートの幸せのために俺はどうしたらいいのだろう。
俺は錬成場に戻って、コンラートから事業の許可が出たことを報告した。
「領主との連絡係は、サイラスに決めたから」
「え?」
「ジャコブさんは訛りがきつい。パオロはチャラい。マルコは人見知り。俺は年下だから!!」
俺はふんぞり返って、腕を組んだ。
「わかった?」
「お……おう」
皆はあっけにとらていた。
なにより、コンラートが喜ぶからって理由だけど。
サイラス以外の三人は突然の口撃を受けてしょげた。
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