第6話 錬成パート
次に訪れたのは、魔法技師隊の錬成室。
魔法技師隊は魔法具を作る部隊だ。畑でできた作物を加工するうえで必要になってくるのが道具だった。辺境伯領で使われる道具は、この魔法技師隊が作っている。
出迎えたのは魔法技師隊隊長だ。
なんだかすごく機嫌が悪そうだ。
「ここは遊び場じゃねえんだぞ」
腕を組んでにらんできた。騎士団や、魔法技師隊にはいまだに俺らが子供だと思って上からくるやつがいる。どうやら隊長はそのタイプらしい。
「遊ぶつもりはありません」
俺も隊長見習って腕を組んでにらんでみた。
ここは職場だし、子供が仕事を止めて入ってきたら誰だって苛立つだろう。でも、俺だって一応は依頼をしに来た身だ。話をする前からけんか腰で来られたら、こっちだってイラっとする。
「兄上、チェンジで!」
「えええ。ちぇんじってなに?」
コンラートは、困ったように笑うと、コホンと咳払いをした。
キリッとコンラートの表情が変わった。
「事前に連絡が来ていたはずなのですが、遊び場じゃないということは、遊びに来ると連絡があったということですか?」
「え」
コンラートの怒りを隠そうともしない声に、魔法技師隊隊長は組んでいた腕を慌てて解いた。
「なら、こちらの連絡をあなた自身の判断で、曲解して私たちが遊びに来たと判断したということですか?」
兄上を見上げると真顔で、糸のような怒りのオーラを発しているのが見えた気がした。こういう優しい人ほど怒らせてはだめなんだ。
隊長は言葉を詰まらせ、困惑した顔で兄上を見返した。
「討伐において、勝手な判断と行動がどれほど危険か……あなたはご存じないのですか。それとも、魔法技師隊は連絡を軽んじるのが常なのですか?」
「……いえ」
あんなに大きく見えた魔法技師隊隊長はシュンと小さくなってしまった。
わずかに肩が震え、視線は床へと落ちた。
魔法技師隊は魔法具さえ作れれば幸せという変人ばかりだ。そこに大きすぎる自信と自負がある。俺に似たコミュ障の集まりらしいから、うっかり態度を間違えてしまったのだろう、と言うことにする。
コンラートってやっぱり領主様なんだなとしみじみ感じた。
「別に難しいことお願いするつもりはないから。隊長自ら出てこなくていいよ。それにこれからすることはこの領の根っこになるかもしれないことだし。話ができる人とやりたい」
俺の寛大な言葉に、魔法技師隊隊長は絶句した。
どうやら彼にとどめを刺してしまったらしい。
隊長はいったん奥に引っ込むと、二人研究員を連れてきた。一人は眼鏡で栗茶色の髪をしたマルコと、もう一人はひょろっと背の高いパオロだった。
「どちらも優秀な研究員です。気の合う方と……」
隊長はそこで言葉を切り、ちらりとこちらを見た。
その視線にコンラートは冷たい目を返した。
「では、二人と話してみます。今回の件、後日こちらから通達します。以後は、事前調整を怠らぬように」
「……承知しました」
その返事はどこか苦々しいものだったが、さすがにもう逆らう気はないようだ。
改めて俺は二人を順に見た。
「魔法具作成を行いたい」
俺が短くそう告げると、パオロとマルコが一歩前へ出た。
マルコは眼鏡の奥でこちらを冷静に観察している。一方、パオロはやけに長い手足を持て余すようにして、所在なげに視線を泳がせていた。
「ぼ、僕はマルコ、です」
「俺はパオロです」
パオロのほうがはきはきしている。マルコはどうやら人見知りらしい。
さて、どちらと組もうか。ゲームだと攻略相手のステータスが見えてどちらと組みますか? なんて聞いてきてくれたのだが……ここにそのシステムは存在しないらしい。
「俺が欲しい機能は、圧搾。乾燥。焙煎。分離。それぞれ微妙に調整しながら使えるものが欲しいんだ」
パオロと、マルコが顔を見合わせる。
おずおずとパオロが口を開く。
「圧搾と分離なら、ラム酒を造る魔法具を転用できるのではないでしょうか?」
ああ、確かにサトウキビからラム酒を作る過程は、おおざっぱに言うとサトウキビを絞った糖汁を蒸留して不純物とアルコールを分離させて作る。
「騎士団がお酒を造っているのは聞いていました。確かに調整すれば使えそうですね」
「ええ、俺は酒が好きなんで……そっちの方はちょっと詳しいです」
パオロがにやりと笑う。一方、マルコはまだ考えていた。
「ごめんなさい。ぼ……僕はまだ何を焙煎するか。分離するものは、液体なのかっ、固体なのか分からないので。ど…どうしたらいいか答えが出ません」
確かに! 俺がうなずいていると、コンラートが二人の様子に目を細めた。
「話ができそうな二人でよかった」
俺はにっこり微笑んだ。
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