第5話 生産パート

お湯に浸かってすっきりさっぱりしていると、部屋にコンラートが訪ねてきた。

俺は部屋のソファに案内して侍従にお茶の指示を出し、そのままコンラートの横に座った。


「ごめん。さっきは怒りすぎたようだ」

「いえ、俺ももし逆の立場だったらって思って反省しました」

「うん」

見上げたコンラートは心配そうな顔をしていた。こんな顔をさせるために頑張ったんじゃない。

「ただ本当に、兄上の力になりたかったのです。お金さえあればどんなことだって挑戦できる」

「うん。でもそれをルシウス一人でする必要はないだろう? 手伝わせてくれ」


衝撃を受けた。


そうか。俺はまた、一人で突っ走ろうとしていた。

周りを見返すために、認めさせるためにと言い聞かせながら、周りに甘えられないのは昔の癖だ。

やっぱコンラートはすごいな。的確に俺の弱みを見抜いてくる。


「あの……兄上。甘えてもいいですか?」

「もちろん」

この世界にはコンラートがいる。もう、前世の俺とは違うんだ。


俺は思いついた特産品をコンラートに伝えた。

森で採取したコーヒー豆と、カカオ。それに、平原で自生しているサトウキビを加工しよう思っていること。料理に挑戦したいことを言った。

「そっか。なら魔法技師隊に相談して、あと苗はスコットさんに相談するのがいいかもね。料理はアランに頼めば間違いないよ」


苗は中庭に埋める気だった。そして手当たり次第に魔法をかける腹積はらづもりだった。

また、反省。もう少し人の頼り方を学ばねば。

うつむいた俺の鼻を指でツンとついて、コンラートが微笑む。

「なんだか反省してるね。ルシウスが成長してる」

コンラートはよしよしと俺の頭を撫でた。俺は一生この人には頭が上がらない気がする。



せっかく紅茶を淹れてもらったのでしっかり味わった後、庭師のスコットさんのところへ行った。

「おお、ラー坊。ルー坊。いらっしゃい」

スコットさんは笑顔で迎えてくれた。兄上、スコットさんにはラー坊って呼ばれてるんだ、とニヤニヤしながら見上げると。コンラートは少し恥ずかしそうに頬を掻いている。

スコットさんは六〇歳を過ぎてから年を数えるのを止めたと言っている、この城館内で一番の年長者だ。


「ライ坊に頼まれて、準備はしておいた。こんなもんでどうじゃろう?」

どうやらすでにサイラスさんが手配をしてくれていたようだ。スコットさんは日当たりの良い場所に三マス×三マスの畑をふたつ用意してくれていた。これゲームの初期畑だ。生産のレベルが上がるとマスが増えるんだよな。


「ありがとうございます。えっと、じゃあ、こっちはコーヒー豆で、こっちはカカオにします」

「おう」

そして、この作業はあっという間に終わった。

収穫まであと五〇日。収穫まであと六〇日。とそれぞれコーヒーとカカオの上に丸いドーナツみたいなアイコンが現れた。ここもまるっきりゲームと同じだ。ドーナツみたいなアイコンがぜんぶ緑色に染まったら収穫の合図だ。ゲームで植えた大根なんかと比べるとやはり長いが、コーヒーもカカオも実際だと年単位でしか、収穫できないんだからここはゲームのシステムに感謝だな。


なんか、手作業とゲームの仕様が交じり合っているな。

「まあ、ぼちぼち様子を見にきな。ふだんはわしが世話をしとくから」

「ありがとうございます」

そう言って畑はスコットさんにお願いし、手を振って別れた。


生産パートは大きく二つ、畑と料理を作ることだ。


畑が終われば次は料理、俺は厨房にいるアランのところへ向かった。

「アラン。これから言うもので、おやつ作りたいんだけど」

「ああ。待っていた。それで」

「卵 はちみつ 小麦粉 牛乳 砂糖 オイル」

「ああ、大丈夫だ」

アランは腕まくりして、俺のなんとなくうろ覚えのレシピを確認する。

「卵白と、黄身を分けて、はちみつは牛乳に溶かすのね」

「卵に砂糖を加えて混ぜて……泡立ったら、黄身を入れて、はちみつを溶かした牛乳淹れて」

「たぶん、粉はふるってキメをそろえて」

「そうそう、あーオイルはあるのでいいや」

「そう全部混ぜ合わせて焼く」


やっぱ異世界の料理はハードモードだ。オーブンなら何度って設定できるから、何度で何分なんて簡単だがここでそれは無理だ。なので、適当に高い温度で様子を見つつ焼いた。


出来上がったのは、カステラ……いや。蒸しパンっぽくなったな。

だが、アランの腕のおかげかそれっぽいものができた。

コンラートが一口食べて、目を輝かせている。

「おいしい」

アランもうなずいて、食べている。

「レシピは改良の余地がありそうだが……おもしろいな」

これ以外にも、プリンとか。チーズケーキならなんとかできそうな気がする。それはおいおい、アランに再現してもらおう。こんなアバウトな指示でここまでできるってさすが、料理人。

「ありがとうアラン」

アランは良い笑顔でうなずいたが、なんだかわくわくした顔をしていた。たぶん、ここからレシピを改良してくれることだろう。なんたって彼は根っからの職人だから。


俺たちは、厨房を後にして、次の場所へ移動した。

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