第4話 冒険パート
平原を走っている間は、あんなにさわやかな風が吹いていたのに、森に近づくとどんよりとした空気が流れてきた。これは森に湧く魔素のせいと言われている。今日も魔獣の変な鳴き声が響いている。魔獣と動物の違いは、その体内に蓄積した魔素の量だ。魔素が溜まると狂暴化し、魔獣となる。
「ところで、ルシウス様は何を探しに来られたのですか?」
「え?」
そうだ、俺はこの森にカカオとコーヒー豆があるのは知っていたが、よく考えれば木に成ってるところは見たことがない。
落ち込んだ。見た目は十三歳でも中身は元二十五歳。十分大人なのになんでどうにかなるって思ったのだろう。
冒険パートって行き当たりばったりで、適当に印のある場所に行って採取って感じだったし。ゲームでは確か。実を見つけるとシステムが「コーヒー豆を見つけました」っていうから迷わなかったんだ。
オルディナ学園の名前が出てくるまでここがゲームの世界って気づかなかったくらいだ。そのシステムが発動するかさえ疑問だ。どうしたらいいんだろう。
ゲームでの採取難易度中級 カカオ豆とコーヒー豆はぜひとも欲しい。
錬成して作るチョコレートとコーヒーは単価が高く、ゲームの時もお金に困ると加工して売っていた。
ここは現地の人に頼ることにしようとサイラスを見上げる。
「サイラス。えっとね。こう、煎るといい匂いがして漉すとおいしいのがコーヒーってやつで、カカオは粉砕して粉にして砂糖と混ぜて丸めるとチョコレートというものができて。こう口の中でトロッと溶けておいしいんだ」
「こーひーとかかお?」
サイラスは分かりやすく頭の上にはてなマークを飛ばしていた。さっきの糖蜜竹と同じかな。違う名前があるのか?
どうしたら……ああそうか。システム音声が流れるのはマップを開いた時だ。それなら、マップを開いたら出てくるのではないだろうか。鞄からマップを取り出して開いてみた。思った通り、赤いバッテンが見えた。
「このバッテンのところに行ってみたいです」
「この地図は魔法具ですか?」
どうやらマップに赤いバッテンが表示されるのは一般的ではないらしい。
「うん。屋敷の中で見つけたんだ」
「そうですか……」
俺が視線を斜めにそらしたせいか、サイラスは目を細めたが見逃してくれるようだ。本当はただの地図です。たぶん、ゲームのシステムが発動しているみたいです。
スレイニブルは順調に、コボルトや、ゴブリンなどの魔獣を蹴散らしながら森を進んだ。それよりも少し大きな魔獣もサイラスの剣の前では障害にもならなかった。
魔獣がアイテムになる瞬間を初めてみたが、致命傷を受けると、パッと光の粒子になりアイテムへと変わった。なるほど、ここはゲームと同じだ。
お金もうけに走るなら欲しいアイテムはたくさんある。一つ目鬼の瞳、不死鳥の羽に、ドラゴンのうろこ。換金率の高いレアアイテムだ。だが入手難易度討伐は上級。どちらにしろ、今のレベルでは会いたくない魔獣である。やっぱり本格的に県に力を入れたほうがいいのだろうか。
悩んでいるうちに目的の場所に着いた。
最初の赤いバッテンの場所には、コーヒー豆が自生していた。
「これがコーヒー豆だよ」
そう言って手に取ると、森についていた赤いバッテンの何個かが芳香豆という表示変わった。ゲームの時はコーヒー豆だと思っていたが、この世界だと名称が違うのだな……なるほど。手に取って正式名称を知ることで表示されるのか。
「ルシウス様、その地図はなんなのですか? すごい魔法具ではないですか」
あまりの剣幕にすぐ答えられなかった。
欲しいものの場所をピンポイントで教えてくれるマップなんて、チートアイテム以外のなにものでもない。
「いいですか? ルシウス様。この地図は絶対に人に見せてはいけません」
見上げると、サイラスはすごく真剣な顔で俺を見下ろしていた。
「サイラスは盗って逃げようとは思わないの?」
「ええ、あなたはコンラート様の大切な弟君ですから」
なるほど、サイラスってコンラート大好きだもんな。
「ありがとう、サイラス」
そこから手当たり次第に森を駆け巡り、無事、カカオ正式名称は星屑豆も手に入れた。ついでに魔獣のドロップアイテムも手に入れて最高の収穫となった。冒険パートの進め方が分かった気がする。
今回は近場を回ったから、今度は奥に進んでみてもいいかもしれない。
「サイラスは欲しいものはないの?」
「そうですね。私が欲しいものは絶対に手に入らないものです」
なんとなく聞いたのだが、思った返事と違った。サイラスを見上げると少し苦しそうな顔をしていた。
「手に入らないとあきらめるのは、足掻いてからでいいと思います。世の中ほとんどのものがお金で買えますし。一緒にお金儲けをしましょう」
「お金儲けですか……ハハハ。慰めていただきありがとうございます」
俺はフルフルと頭を振った。コミュ障のくせに人を慰めようとして失敗してしまった。
いくら全身全霊で欲しいと願っても手に入らないものは世の中にいくらでもある。それは俺も痛いほど知っているのに。
「では帰りましょうか」
「はーい」
帰りに平原で糖蜜竹サトウキビを手に入れて城館へと帰った。
帰ると城門前にコンラートが立っていた。俺を見るとすごい勢いで怒り始める。こんなに怒られたのは初めてだ。コンラートはなんだかんだ言って俺には甘かったから、ばつが悪い。今にも泣きそうな瞳はぎゅっと細められて俺を見ている。
「一人で森へ行こうとするなんて、なんて無茶なことをするのですか?」
「だって、サイラスがいたから」
「ええ、ライは腕の立つ騎士ですが、もしも、ということだってあるんですよ」
コンラートはそう言って俺をぎゅっと抱きしめた。その手が震えている。
「……ごめんなさい」
「ルシウスはしっかりしていてもまだ子供です。だから、心配なのです。さあ、部屋に戻って……だいぶ埃っぽくなっています。洗ってらっしゃい」
コンラートはそういうと微笑んで、俺の鼻を指でツンとつついた。
「はい!」
元気よく返事をして、城館へ向かった。振り返ると、今度はコンラートが頭一つ大きいサイラスに、抱きしめられていた。サイラスって、コンラートにはライって呼ばれてるんだ。年はサイラスのほうが四つ上だ。
サイラスはなんであんなに優しい目が……温度のこもった目ができるんだろう。
なんとなく見てはいけない気がして、すぐ目をそらした。
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