第3話 騎士団の臨時収入

移動のための乗り物は、船。馬車。軍馬スレイニブルの三択だ。

ノクタビア領は内陸に位置し南から海のある北へ大きな川が流れているため。荷物や、長い移動については船を使う。

馬車は川から遠い場所へ行くときに使い。討伐や森に近い場所への移動は、スレイニブルという八本足の馬に乗ることが多い。スレイニブルはこの世界では一般的な乗り物で、しいて言うならバイク扱い、馬よりも速く走り、小さな魔獣ぐらいなら蹴散らしてくれる。


俺はディープというスレイニブルを所有している。名前の由来はあの競走馬だ。


自分の能力も確認できたので、さっそく森へ向かうことにした。

森の探索なんて楽しみだ。

鼻歌を歌いながら鞍とあぶみを持って移動していると、騎士に見つかった。

「ルシウスさまー。お出かけですかい?」

「ああ、森に行こうと思っている」

騎士は驚いた顔をした後、ため息をついた。

「見かけたからにはー、報告義務があるんでい、ちょいと待っててくだせい」

ちょっと待てと言われて待つわけがない。俺はそのまま厩舎に向かいディープに挨拶をする。厩番うまやばんが鞍と鐙を受け取って、ゆっくりと付け始めた。明らかに時間稼ぎをしているな。

俺が腕を組んでにらむと、厩番は困った顔をする。それでも、ゆっくりとした動作で装備している。誰かの指示だ……絶対!


「ルシウス様!」

大きな声で呼ばれて振り返ると、辺境伯騎士団第三番隊副隊長のサイラスが走ってきていた。騎士団のお祭り、騎士祭で、三五〇人を超す参加者の中からベスト八に残った実力者だ。若手ではナンバーワンだろう。茶色い髪と、茶色い目はこの国で一番よくある色味ではあるが、体格が良く、甘めの顔をしていて騎士団内にもファンが多い。


思ったより大物を連れてきたな。


「サイラス。こんにちは!」

元気よくあいさつした。

「はい、こんにちは。それで、森に行くのですか?」

単刀直入だ。

にっこりと笑顔を浮かべたままどうしようかと思案する。ごまかしてみるか。


「ちょっと、森の近くまで行こうかと」

「なにをしに行くのかうかがっても?」

「森に欲しい作物があって……」

サイラスのこめかみがピキリと脈打った。

「ということは、森に入るわけですね」

「……はい」

ごまかせなかったー。

しょんぼりうつむくと、サイラスの後ろから先ほどの第一発見者騎士がメットを二つ持って隣に立った。

サイラスはそのメットを俺にかぶせると顔を覗き込んで鼻を指でツンとつつく。

「私がご案内します」

「え?いいの?」

「連れて行かねば、隠れていくつもりでしょう」

うん、ばれてた。


そうして、サイラスと二人乗りして森に向かった。道中サイラスのお小言さえなければ、気持ちの良い旅だった。

森に近い平原を見て驚いた。

「お、サトウキビって自生してんだ」

「ああ、糖蜜竹ですね。この視界に見えるあそこから、あそこまでが糖蜜竹です」

サトウキビとは呼ばず、糖蜜竹というのか。

「すごい。生えてるね」

「あれはほっとけば、際限なく増えるので、騎士団でも定期的に伐採しております」

「え? そうなの。伐採した後は?」

「絞って、酒を造っております」

驚いた。

そっか。サトウキビと言えばラム酒か。俺は前世では酒よりスイーツとコーヒーだったから。思いつかなかった。砂糖よりそっちの方が需要が高いのだろうか。

「騎士団ってお酒の販売権持ってるの?」

「はい。酒の販売利益が騎士団の装備品などに使われています。それに、酒造りは主に引退した騎士たちが担っており再雇用の場にもなっております」

あー、なんかとっても効率的。自分たちで工夫して収入を増やしてるのか。

騎士団ってすごくお金がかかるよね。剣にしても、装備品にしても一律というわけにはいかず、オーダーメイドのことが多い。騎士がいくら高給取りでも、あったらあっただけ出ていくだろう。少しでも良い剣を。少しでも良い鎧をって。それが命に直結しているならなおのこと、妥協などできない。


うちが貧乏領なのもそのせいかもしれない。

領から騎士団に出すお金が足りない分、騎士団印のラム酒は臨時収入として大いに役立っているわけだな。

「飲んでみたいな」

「成人するまで、お待ちください」

成人か、この世界だと十八歳だ。あと五年はお預けか。

俺がしょげると、サイラスがまた笑った。


でもそれなら、ラム酒と一緒に砂糖も作ればさらにお金儲けができるんじゃないか。


「今度糖蜜竹を伐採したら、少し私にも分けてもらえないかな?」

「はい。わかりました。伝えておきます」


そう話し合っていると、森に到着した。

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