11月13日(木) A・B・C の選択
朝から、認知症疾患医療センターから次々と電話が入った。
裏ではケアマネージャーの岡田さんが、静かに、でも確実に動いてくれていた。
本来入院予定だった A 医療センター は説明こそ丁寧だったけれど、
肝心の入院の見通しが立たないまま。
そのため岡田さんは、他のセンターにも同時に問い合わせてくれていた。
手元のメモには、こう記されていた。
A:入院時期未定
B:17日入院可能(ただし遠い)
C:17日入院可能(近い・綺麗)
条件だけ見れば、どう考えても C が最善。
でも——私一人で決めてしまうわけにはいかなかった。
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■ 義姉・智美への電話
私は真っ先に誠の姉・智美に電話をした。
Cを選びたいと思っていること。
お義母さんがすでに限界に近いこと。
そして、このままでは誰かが先に倒れてしまうかもしれないこと。
すべてを話し終えると、数秒の静かな間があった。
そのあと——
「霞さん達で決めていいよ。
私はお願いすることしかできないから。
大丈夫、どんな決断でも受け入れるからね。」
その言葉に、胸の奥で張りつめていた何かがふっとゆるんだ。
“任せるよ”
ただその一言に、どれほど救われたか分からない。
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■ 誠との話し合い
誠にも状況を伝えた。
Cがいいと思うこと。
だけど胸の奥がざわざわしていること。
伝えながら、自分の中の迷いの正体にも気づいた。
「本当にこれでいいのかな……?」
でもその迷いを払拭するように、
お義母さんの疲れきった顔が思い浮かんだ。
お義母さんは強い。
でも、強さにも限界がある。
“もう限界を超えている気がする”
その直感は、きっと私の中のどこかで
ずっと鳴り続けていた警報だった。
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■ 岡田さんからの一本の電話
午後、岡田さんからまた電話がきた。
「霞さん。どれを選んでも大丈夫ですよ。僕が全部調整しますから。」
そのやわらかい声を聞いた瞬間、
胸に絡みついていた不安がすっとほどけていくのが分かった。
ああ、この人に任せよう。
静かに、でも確かに、覚悟が固まった。
「……Cにします。」
そう告げたとき、驚くほど気持ちがすっきりしていた。
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■ 入院まで、あと4日。
おじいちゃんの入院は17日。
家にいられるのは、残りたった 4日。
その数字の重さが、じわりと胸に広がった。
どんな4日間にするのか。
何をどう感じながら過ごすのか。
私はそっと深呼吸した。
——残された時間を、大切にしよう。
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