第1話

 懲役三年。判決、以上。

 罪状は「未成年」。あるいは「未完成」。

 市立××中学校とかいう名前のコンクリートの棺桶は、いつだってカビと砂埃と、押し殺した悲鳴の匂いが充満している。

 高いフェンスは脱走防止。僕らがここから逃げ出して、大人のフリをして街を闊歩したりしないように監視するための檻。

 自由?

 そんなもん給食の冷凍ミカンと一緒にマイナス20度で冬眠中。


 午後四時十五分。

 西日がオレンジ色のペンキみたいにドロドロと教室に流れ込んでくる。

 焼却炉。僕らはここで焼かれて灰になるのを待っている。燃えるゴミ。

 僕は窓際、後ろから二番目。

 息を殺す。

 時間を殺す。

 自分を殺す。

 教師が何かわめいている。「内申点が」とか「将来が」とか。

 ノイズだ。遠い国のラジオみたいにザラついた欺瞞。

 僕らがここで学ぶのは、脊髄反射で愛想笑いを貼り付ける技術だけ。

 空気を読めない奴がどうやって静かに「処理」されていくかを、ただ見ているだけの処刑場の観客席。傍観者。


 佐藤裕一。それが僕のタグだ。

 成績は中の上、部活は幽霊、発言なし、存在感なし。

 カースト最下層の空気。背景。それが僕のサバイバル。

 感情のメインスイッチをオフにして、風景の一部に擬態して、このクソみたいな収容所から無傷で出所することだけを願ってる。

 誰の記憶にも残りたくない。卒業アルバムを開いたときに「こんな奴いたっけ?」って言われたら僕の勝ちだ。完全勝利。


 そう思ってた。信じてた。

 あの「戦場」で、彼女と目が合うまでは。


 教室という名の焦土の真ん中で、彼女だけがたった一人、第三次世界大戦をやってのけていた。

 防災頭巾を目深に被り、バカでかいリュックサックを背負って、世界の終わりを待ちわびている少女。

 塔野イザナ。

 彼女の目には、僕らには見えない弾道ミサイルが、いつだって雨みたいに降り注いでいる。

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