溺愛王子一万人

鵜久森ざっぱ

-1-

 どうか神様、お願いします────。

 このクソみたいな縁談をぶち壊してください────!!


 ……なんて、祈ったところでどうにもならないのはわかってる。

 うちは領地は狭いけれど聖女の家系。そこの娘は王家に嫁ぐ決まりがある。

 だけど、今の王子ってめっちゃ評判悪い。

 こういうのってさー「評判は悪いけど無愛想なだけ」とか「態度が悪いのはツンデレなだけ」とかが定番じゃん?

 でも実際は、金も権力もない、ただ女にだらしないゴミカス中年オヤジ。いや王子。

 せめてそこは「冷徹腹黒溺愛系王子」であって欲しかった……。物語みたいな美味しい展開はそうそうないらしい。

「私もう嫁ぎ先決まってるから。あとヨロシク」じゃねーんだよクソ姉!役割押し付けて自分だけ逃げやがって。

 両親は姉可愛さに文句も言わず、わたしが我慢すれば全て丸く収まると思ってやがる。

 ほんとクソ。クソみたいな人生。

「……クソが」

 誰もいない部屋で、一人悪態をつく。


「ノエルさま」

「せめてノックくらいしろよ」

「開けっ放しでしたよ」

「だからって姫の私室に男がしれっと入ってくんじゃねえっつの」

 振り向かなくてもわかる。シオンだ。私が子供のころから仕えてる側近。融通利かないし口は悪いし遠慮も皆無だが、人手が足りな過ぎてクビにできないでいるアラサーだ。

「まだ二十代半ばです」

「うっさい。四捨五入すれば三十だろ。さっさと家庭持てよ」

「このお城には年頃の可愛い娘がいませんので」

「悪かったな。うちは金がないからメイドは雇えないんだよ」

「……そんなことより、お父上がお呼びです。今すぐお越しください」

「えーめんどくせえ」

「その言葉遣い全部告げ口しますけれど」

「くっ……そ、わーったよ!」

 まったくコイツ相変わらず性格わりぃ。しぶしぶ父上の部屋まで行くと、父と母がそろって待っていた。

「当家に代々伝わる、聖女が祈りをささげる時に着ける指輪だ」

「王家に嫁ぐお前にやれるものはこれしかないけれど、幸せを祈っています」

 二人とも目をウルウルさせてるけれど、ようは他のものは全部姉にあげるってことだろ?

 ま、でも?両親の前じゃいい子を通してるから、ちゃんと笑顔で受け取ったけれどね。

 文句を言ったところで、姉の方ばかり大事にしてきた両親にはなにひとつ通じない。もうなにも期待していない。


 神に祈りをささげる聖女。その力はこの世界を守る。

 ……世界の前にわたしを守ってくれ。

 部屋に戻った後、指輪をはめて、わたしは独り手を組み、祈った。

「神様お願いします。

 どうか、わたしを溺愛してくれる素敵な王子さまが突然現れて、わたしをこの最悪な婚約から救ってください」

 ……なんてね。

 わかってる。諦めるしかないってことくらい。そういう決まりだもの。どうせ誰もわたしを大切になんて思ってくれない。

 無駄なことしてないで、今日はもう大人しく寝よう。



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