どこへ

白川津 中々

◾️

 塾の帰り道、骨まで沁みるような寒さが心許ない。


「もうちょっと頑張らないとな」


 親、担任、塾講師、皆、同じ事を言う。

 俺は頑張ってこれなんだと説明しても「恥ずかしくない大学に行かないと」と会話が噛み合わない。結局、無理をして偏差値を上げていくしかないのだ。


「寒い」


 すれ違ったサラリーマンが首を窄めて過ぎていった。薄いダウンに、リュックサック。髪の抜け具合のせいで若いのか若くないのか分からない風貌であった。


 あのサラリーマンはどれだけ勉強して、どんな大学に入って、どう仕事に就いたのだろう。

 俺はどれだけ勉強して、どんな大学に入って、どう仕事に就くのだろう。


 あのサラリーマンが、まったく荒唐無稽な妄想だったが自分の将来なのではないかと思えてしまって俺は振り向かざるを得ず、丸まった、頼りない後ろ姿が遠ざかるのを見送った。何処へ行くのか、どうなるのか、サラリーマンについても自分についても、まったく先が分からない。


「寒い」


 俺はサラリーマンと同じようにそう呟いて首を窄めた。サラリーマンは、もうすっかり見えなくなっていた。

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