EP.1 昼休みと仲間たち

 季節は巡って高校2年の春。


 俺"日向大翔"は屋上でいつものメンバーと談笑しながら昼休みを過ごしている。1年前の春とは少し違う、心地良い温かな春風を全身に浴びながらこの穏やかな日常に頬を緩ませた。


「ねーねー!!今日って今年で一番あったかいんだってさー!!もうすっかり春だよね〜」


 なんて呑気に空を見上げているのは蓮見優。バドミントン部の次期エース候補で去年は一年生ながら全国大会に出場した実力を持つ。太陽みたいに明るくて、雲のように気まぐれな性格は学年を跨ぎ数多くの男子のハートを射止めている。しかし本人は全く気付いていないのがまた優らしくて良い。


「なーに言ってんだ優!!今年が始まってまだ数ヶ月だろ?」


「ブーっ!!紅士は正論禁止!!!せっかくいい感じの青春っていう雰囲気だったのに〜」


 鋭くど正論で突っ込んだのは赤澤紅士。こいつもバドミントン部で去年は県大会決勝で敗れたものの既に全国レベルと言われている実力者だ。爽やかな見た目とは裏腹にTHE体育系な性格で超熱血系というギャップが女子人気を高めている。特にスマッシュの時にシャツが捲れて腹筋があらわになる瞬間が堪らないらしい。(優調べ)



 そんな2人のやり取りを微笑ましく見守りながら俺は購買で買ってきた塩焼きそばパンを頬張る。ソース焼きそばと違って塩レモン風味のタレと豚バラの相性が特に最高。ジャンクフードが大好きな男子高校生うってつけの逸品だが、購買に出ると僅か3分で売り切れてしまうほどの人気商品であるが故に事前に告知はされず完全に運だけで手に入れる事ができる幻の惣菜パンだ。


 そしてそんな幻の逸品を手に入れる事ができた今日の俺はどうやら運が良いらしい。


 なんてことを考えていると屋上の扉がガシャリと開く音が響いてカツカツと男女3人組がこちらへ歩み寄ってきた。



「やっほー3人とも。元気にやってるかい?」


 そう言いながら優の隣に腰を下ろしたのは陸上部の芹沢要愛。去年は一年生ながら4×100メートルリレーのメンバーとして全国大会に出場し見事優勝を修めた実力者。さらにその大会でチームは大会レコードを叩き出したらしい。すらっと伸びた細長い手脚にアイドル顔負けの小顔という抜群のスタイルに釘付けになる男子は多いと聞く。(優調べ)


「かなめん待ってたよ〜!!!優に会いたかったよね?そうだよね!!!」


 ブンブンと尻尾を振っている優の頭を撫でながらハイハイといった表情で抹茶ラテをこくりと飲む要愛。その隣で胡座をかいているのは伊南渓だ。


 どうやら渓も俺と同じく幻の塩焼きそばパンをゲットしたらしくご機嫌そうな顔でビニールを開けている。



 渓はサッカー部に所属していて、先日の紅白戦で見事にスーパープレーを連発しチームの守護神に昇格したらしい。去年は県大会ベスト4という成績を収めたものの全国までの道のりは険しく今年こそは宿敵を打ち破っての全国大会出場を目標に掲げている。そして紅士に負けず劣らずな爽やかな見た目とちょっとキザなところがやたらと一年女子たちから人気らしい。(優調べ)


「大翔も塩焼きそばパンゲットできたんだ!!!俺たち今日はツイてるかもね!!!」


「間違いない、、、今日は最高の1日になりそうだな!!」


 俺たちはニカっと笑い勝利のグータッチを交わした。一方の紅士は何処かの野球選手並みに大きい弁当箱を抱えながら何か言いたげにこちらを見ている。両頬にご飯を詰め込んでいるようでそれがリスに見えて何だかジワジワと笑えてくる。頬に詰め込んでいたであろうご飯をごくりと飲み込むと紅士はようやく口を開いた。


「おい!!大翔!渓!お前らそんなもんばっかり食ってると将来ぶっ倒れるぞ!!もっと食事はバランスよく食え!!」


 こいつこの爽やかな見た目でデカい弁当箱抱えてるだけでも面白いのに発言まで見合ってないとかどんなギャップだよ、、、なんて考えていると渓も同意だったらしく2人で顔を見合わせてケタケタとツボに入ってしまった。そんな俺たちを横目に紅士は残りの弁当をガツガツとかき込んでいった。


「優ちんは本当にかなちんの事が好きだね〜。うちにも甘えてくれて良いんだよ〜?」


 最後に優の隣に腰掛けたのは花宮涼香。ギャルっぽい雰囲気を醸し出しているため一見体育会に属しているようには思えないが彼女もまたこの学校のバレーボール部で2年生ながらエースとして活躍しているチームの起爆剤だ。去年の県予選ではメンバー入りを逃したがそこからメキメキと頭角を表し今ではチームに欠かせない攻撃の要として全国大会出場を目指している。着崩した制服の襟元から主張する立派な渓谷や短く折ったスカートから覗く綺麗な塔に性癖をぶっ壊される男子が続出しているらしい。(優調べ)


「りょーちゃんも大好きだよ〜!!!みんなで仲良しってなんかあったかいね〜」


 涼香は優の頭をワシワシと撫で回しながら我が子を見守る母親のような、深く温かい眼差しを向けている。



 そして俺はそんな何気ない優の一言に


 "友人と過ごす賑やかで、でも穏やかな昼休み"


 "次は何をしようかと期待に胸を膨らませる放課後"


 "気まぐれな雲のようにのんびりと時間の流れる休日"


の尊さを噛み締めた。


 一年前の春は想像もできなかった。こんな素敵な仲間たちと同じ時間を共有する日が来るなんて考えたこともなかった。


 だから俺はこの関係がいつまでも続くように、終わりのない青春を望みながら青空に浮かんだ微かな月に願いを込めて祈る。


 深く息を吸ってこの青い春の空気を目一杯、胸の奥に閉じ込めた。

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