第7話 「蓬莱山の宝の枝」後編

「ぬうぅ……」

呻き声を上げて、徐福は体を起こした。

焦点の定まらぬ目で、ゆっくり僕を見た。


「……どうして飛べぬことが分かったのだ。」


徐福は、痛む首を押さえながらゆっくり喋りだした。

僕は徐福の目を見ながら、大きく溜め息をついた。


優しい僕は解説をしてあげることにした。


「まず、プロペラの形、そして角度がなってない。お前は空力が分かってない。それにプロペラを付けるならジャイロ機構が必要だ。逆回転のプロペラをもう一つ。それがないと回転トルクで機体ごと回ってしまうぞ」


言いながら僕の職人魂に火がついてしまった。


「おお、もっと詳しく教えてくれ」

徐福は前のめりに聞いてくる。


KAGUYAは、ジャイロの辺りで着いてこれなくなったようで、寝そべって地面に落書きしている。


「飛びたければとにかく軽量化だ。パワーを重さに求めるな。軽くて速いほうがいい。速さが倍なら、衝撃はその二乗で効いてくる。


そして、プロペラのベアリングも甘い。必要なのは精度だ。これには時間とお金を惜しんではいけない」


「なるほど。それから?」

徐福はメモを取り始めた。


KAGUYAは完全に会話から離脱していた。

落書きにも飽きて、今度は蝶を追いかけ始めた。


こりゃ、完全に授業だな。

戦闘より熱い講義が始まってしまった。

僕の講義は朝まで続いた。



---


朝日が昇り始めた頃、徐福と僕はすっかり打ち解けていた。

蓬莱山の宝の枝も講義料として譲ってくれるという。


「これからどうするのだ?」

徐福は僕に訪ねた。


「次は竜の頸の五色の玉を手に入れないといけないんだよね。何か情報無い?」

ここから先は全くのノープランだ。情報が欲しい。


「ああ、それならオレと同じ四天王の一角、瑤姫ようきが所有している。奴は強いぞ。ククク……なにせオレは四天王の中でも最弱……」


「……いや、自分で言うなよ」

思わず素でツッコんでしまった。


そして、四天王じゃ残りの宝物の数が合わない。

残りの四天王は三人。宝物は二つ。


「で、徐福はこれからどうすんの?」


徐福は遠くを眺めながら答えた。

「一念発起して、政中にある摂津国の寺子屋に通おうと思う。あそこはからくりの髄を究めたところだと聞く。オレは空力を究めたい」


そう言えば寺子屋があるな。

前にそこの学園祭で露店を出したことがある。


「あぁ、政中摂津工科村塾まさちゅうせっつこうかそんじゅくか……。懐かしいな」

そう僕が言うと、徐福は驚いたように目を見開いた。


「奥菜さん、まさか工科村塾の……あんた一体……」


何か勘違いしているようだ。

まあ、黙っておこう。


僕とKAGUYAは徐福と別れ、竜の頸の五色の玉を求めて旅立つことにした。


徐福から旅のお供にとその土地の美味しいものをたくさん貰えた。

また、瑤姫には徐福から一応電話しとくとのことだった。

こんな山奥でも電波届くんだ。


下山中、KAGUYAが思い出したように言う。

「そういえば、熊は一度も出なかったですね」

「ああ、たぶん徐福を見間違えてたんじゃないかな」

「あっ……なるほど。確かに大きかったです」

「ま、まあ、大きな漢ではあった、な……」


徐福、律儀な良い奴だった。

振り返ると、朝日が山肌に差し込んでいた。

次の宝物へ向けて、旅はまた続く。

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