第4話 はためくフラグ
部屋に戻ると、彼女は目を丸くした。
「部屋に何もありませんよ。泥棒にでも入られたのでは?」
いや、さっき一緒に池に投げ入れたじゃないか……。まさか、忘れてる?
「あんな大きな箪笥まで。いったい誰が!」
それは君が一人で……。あの時は、ちょっと引いたよ。
僕らは、何もない部屋でただ呆然と立ち尽くした。
---
旅に出たいが、準備が全く出来ていない。
資金が足りない。
そこで、しばらくは竹細工をたくさん作り、それを売って旅費を貯めることにした。
彼女にも手伝って貰えば、すぐに貯まるだろう。
それからというもの、山に入っては竹を切り、竹細工を作って、町に売りに行く。
慎ましいけれど、暖かい暮らし。
いつしか、僕は彼女のことをKAGUYAと呼ぶようになった。
---
僕はKAGUYAに竹細工の手解きをした。
竹を割り、角を落とし、ささくれを取り、穴を開ける。
僕が作るのを見て、KAGUYAも真似て作る。
まあ正直、出来てはいない。
今日は竹編みを教えることにした。
「じゃあ、今日は竹籠の作り方を教えるね。覚えたいって言ってたろ」
「はい」
KAGUYAは正座をして、まっすぐ僕を見る。
「よく見てろよ」
「はい」
素直で……いや、かわいいけども……。
僕は竹籠を編み始めた。
それをじっと眺めるKAGUYA。
「ん?」
僕は視線を感じて顔を上げた。
KAGUYAと目が合った。
「ん?」
KAGUYAは不思議そうに首をかしげる。
「いや、僕じゃなくて、手元を見ろよ」
「えっ、そうなんですか?」
「そりゃそうだろ」
「何だか奥菜さんを見てると、ずっと見てたい気持ちになるんですけど、奥菜さんは見られるの嫌ですか?」
KAGUYAはまた少し首をかしげる。
今度は少し不安そうだ。
「あ、いや、嫌ではないけど」
「じゃあ、見てます」
くそう。かわいいやつめ。
まいった。気になって全く集中できない……。
---
こんな感じで二人で竹細工を作る日々が続いた。
――しかし、KAGUYAは壊滅的に不器用だった。
味はある。
だが、同じものが二つと出来ない。
……いや、確かに味はあるんだが。
KAGUYAは竹の編み方を必死に覚えようとした。
「月に行ったとき、竹編みの技法で建築をする必要があるのです」とのことだ。
しかも、五つの宝物の効力が損なわれないうちに完成させなければならないらしい。
懸命に作っては僕に見せる。
「出来ました。どうですか?」
「あ、うん、独創的だね」
次もすぐ取りかかる。
「次はどうですか?」
「ああ、ユニークで良いじゃないか」
また作って見せる。
「これはどうです?」
「お、おう……攻めてるね」
KAGUYAは全てを褒め言葉と受け取り、上機嫌で出来た作品を納屋にしまいに行った。
少しずつ上手くはなっている気はする。
気はするが……。
……地球、もう駄目かもしれない。
---
そんな日々が続くうちに、ふと考える。
所帯を持つってこういう感じなのだろうか。
以前、都紀ノ國屋の主人から見合いを持ちかけられたときは、相手すら聞かずに断ってしまったが。
この時間が、ずっと続けばいいのに――。
「……おれ、この戦いが終わったら、KAGUYAと——」
ここで、背筋が凍るような感じがした。
その瞬間、
「バサッ、バサバサッ」
見えない旗が立ち上がる音がした。
――やばい、フラグを立ててしまった。
慌てて両手でその妄想と旗をかき消す。
「奥菜さん、今、何か言いました?」
納屋から戻ったKAGUYAが首をかしげる。
「い、いや、何でもない」
危ない。
もう少しで、悲しいモブキャラになるところだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます