第9話 夜道のバケモノ
放課後。
ラブが俺の家までついてくるんじゃないかと身構えていたわけだが、
「あたし今、無性に本屋さんに行きたくてしかたないの。それじゃまた明日ね」
そう言ってラブは一人忙しなく帰っていった。
さっぱりした別れに拍子抜けしてしまった。
そんなわけで俺は一人帰路につくことに。
今の時期は日が沈むのが早くて、あっという間に真っ暗だ。
まだ夕方だというのに、まるで深夜かのように辺りは静まりかえっていた。
しかも住宅街を歩く人間は俺一人だけ。歩き慣れた道でも、こうも真っ暗だと怖いぞ。
おどろおどろしいというか、ホラー映画的なこと起きないでくれよな――――。
不意に、ガサガサと葉が擦れる音がした。
「ひっ――」
咄嗟に俺は音のした方を振り向く。
誰もいない。
何も無い。
なんだ。
気のせいか?
そうだよな。そうに決まってる。
ホラー映画とか想像したせいだろう。
気のせい気のせいと思い直した俺はまた歩き出す。
しばらくして、また不穏な音がしたんだ。
ザ、ザザ……。
無視するのは躊躇われた。
歩みを止め、またもや振り向いてみる。
俺は息を飲む。
今度は――人影のような物が見えたんだ。
電柱の裏に立ち、街灯の明かりから体を隠そうとしているように見える。
ソイツは動かない。
ひょっとして、つけられてる?
こいつに背を向けて先を行くという考えは無かった。だって恐怖で体が凍り付いてしまっていたから。
俺の後を付けるような人物って――。
人影に向かって俺は恐る恐る声を掛けてみる。
「……ラブ。そこにいるのか?」
返事は無い。
ならプライドを傷つけられたクラウンが闇夜に仇討ちしにきたとか?
いやアイツなら正々堂々やってきそうだ。
このモヤモヤを抱えたままにするのが嫌だった俺は、不用心だとわかりつつも人影のある電柱に近づいていった。
なんのことはなかった。
本当にただの影だった。
「なんだ。アホらし」
一気に落胆した。
馬鹿な事したな。
誰にも見られずに済んでよかった。
恥ずかしさのあまり早くその場から立ち去ろうと歩みを進めた時だった。
ザザ……。
ザザザ……ザザザ……。
体に纏わり付くような不快感だった。
念のためさっきの電柱をもう一度確認したけど何も無い。
風は吹いていない。
野良猫もいない。
ガサガサと鳴るような植物なんて一つも生えていない。
じゃあ、一体なんの音だよ。
静けさに恐怖心を煽られた俺の頭が作り出す幻聴か?
その時だった――。
「…………×□△○っ!」
人の声とも電子音ともつかない謎の音が、爆発したかのように音を発した。
それに合わせて暗闇がゆらゆらと煙のように動きだす。
人影のようなものが一つ、また一つと現れる。
囲まれそうだ。
バケモノ染みている。
縮み上がった俺は一目散に駆けだした。
それらを振り払うように一心不乱だった。
後ろを振り向く余裕はない。
怖すぎて悲鳴なんか出なかった。
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転校生の(自称)女神が、俺に謎の好意をよせてきて異世界転生させようとしてくるんだが 津山 まこと @tsuyamamakoto
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