あの雲の中にはラピュタがある

平中なごん

 あの入道雲の中にはラピュタが隠れている……。


 薄く霞んだ夏の空に入道雲を見上げる度、いつも僕はそんな妄想を描いていた。


 そう思うようになったのは、もちろん某国民的アニメスタジオのあの映画の影響による。


 ジョナサン・スウィフトの小説『ガリバー旅行記』に登場する天空に浮くかぶ島をモデルに大胆な脚色を加えて作られたこの映画において、超古代文明の遺産たる天空の城は、〝竜の巣〟と呼ばれる巨大な積乱雲──入道雲の中に隠されているのだ。


 幼き頃よりテレビで放映されるこの映画を幾度となく見て育った僕は、もくもくと大きく成長した入道雲るにつけ、自然とそうした妄想をいだくよう潜在意識レベル加良形作られてきたのだ。


 といっても、芯から本気でそう信じているわけではない。そもそもが作り話であるし、半信半疑というか、いやもっとからは遠い、そうだったらいいなあ……そうだったらおもしろいなあ……などといった程度の軽いものである。


 ……いやでも、もしかしたら、本当にラピュタがあの中に存在しているなんていう可能性もないとは言えないかも……。


 ただ、たまにふと、そんなバカげた幻想が脳裏をかすめるようなこともあったりなんかはする。


 それほどまでに、あの冒険活劇アニメが僕にかけた〝入道雲〟の呪いは、現実と妄想の境界を曖昧にするくらい強烈で、心の奥底に深く刻み込まれたものだったのである。

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