竜の力 自己犠牲とナノマシン②



 わたしのアニマギアに対するリオの情熱は常軌を逸している。初期型の試作機の頃でも、拳銃の弾丸くらいならば容易に弾き、刃物も通さず衝撃も吸収する。怪我をする方が難しい性能をしていた。


 しかも、装備している間は運動神経も飛躍的に上昇して『獣人離れ』した動きができる。それこそ戦闘に特化した竜人のように。


 言わずもがな、そんな過剰な性能をしているものをわたしなんかが扱いきれるわけもなく、数々の調整を経て日常生活を送る上で不便しない程度まで性能を著しく落とすことになった。


 それでも常用するにはわたしの体力も気力も保たなかった。それが初期型の特徴だった。


 それから数々のアニマギアが作られていったが、わたし用のアニマギアの製作は難航を極めていた。

 

 そして、リオの及第点に至ったわたし専用のアニマギアは『妖精型』という名称になった。


 わたし専用のアニマギアは基本的には相変わらず首から下のほとんどを覆う珍妙なインナーを着なくてはならない。


 その新型は脊椎に沿って尾骨のあたりまで保護鎧のようなものがあり、そこから全身に電子回路のような疑似的な神経が全身に伝達している。わたしの脳波に同調して反射神経を劇的に高めるのだとか。銃を撃たれても見てから即座に躱せるくらいに。


 今までと違う点は、わたしの意思や感覚を補強してくれるような性能に変わったところだ。常に強化するのではなく、必要な時に必要なだけ、最小限で最大限の性能を引き出してくれるので体力や気力を浪費することがなくなった。


 欲を言えばぴっちりとした姿をどうにかして欲しかったけれど、専用のアニマギアができる頃には、もう慣れて抵抗もほとんどなかった。ちなみに剥き出しの頭部にはイヤーカフとヘアバンドがアニマギアとしての役割を果たしてくれている。


 その『妖精型』の一番の特徴は実体のない羽のようなものが生えることで、短距離の飛翔を可能にしている。


 唯一のわたしの長所は体重の軽さくらいなもので、それを生かした結果だそうだ。飛ぶとは言っても、流石に自由自在とはいかないけれど、跳躍力の強化や空中での方向転換などが容易にできるそうだ。


 軽量化の結果、防御力は以前のアニマギアと比べると控えめになってしまったけど、それでも初期型に劣るわけでもなく、攻撃が命中してからでも即座にいなすことができるので、性能も飛躍的に上昇したらしい。自分の装備なのにどこか他人事になってしまうのは、わたし自身がその性能の重要性をあまり理解していないからだ。だって、日常生活を送る上で銃や刃物で攻撃される機会なんてそうそうない。


「着心地はどうっスか、妖精さん」


「……からかわないで。まあ、いつも通りだよ、それよりなんで新しいアニマギアは『妖精型』っていうの?」


「完全にぼくの趣味っスね」


「……趣味っスかぁ」


 着心地を確かめるようにまじまじと全身を観察すると、鎧のような装甲はあまり目立たないように出来ている。脊椎以外にも主に人体の急所を守るように、できるだけ目立たないように装甲が付いていて、より防具としての存在感があった。


 皮肉にも、本来なら微塵も存在しない胸の膨らみがちょっとだけあって複雑な気持ちになった。あとは、お世辞にも妖精のようなかわいい見た目をしてはいないと思った。


「肩甲骨らへんから羽が生えているイメージで動かしてみて欲しいっス」


「は、羽ぇ……?」


 かなり無茶な注文だ。


 羽なんて生えてるイメージなんてメルヘンチックなことを言われてすぐに湧いてくるわけがない。


 リオはなんだかかなり期待しているみたいだから、期待には応えないと。ええと、インナーに走ってる電子回路のようなものが肩甲骨らへんから翅脈のように。蝶の羽が生えるイメージで。


 えっ、急に全身が軽くなったと思ったら、ちょっとだけ浮いてる……。あ、不味い、足が着かない。どうしよう、どうしよう。


 手足をバタつかせて慌てていると、急に浮力を失い床に叩きつけられる。


「リオー……」


 恨めしそうにリオの名を呼ぶと「練習が必要かもっス」と気まずい表情をしていた。

 

「あと神経を拡張した関係で、感覚がかなり敏感になるから慣れるまで大変だと思うんスけど」


「……体は軽いけど。ものすっごく、くすぐったいよ?」


「感覚が鋭くなってるっスからね。まあ最低限怪我はしてほしくないっスから、なにしろリリさんの肉体は鍛えることが出来ないので、どれだけ備えても無駄になることはないかなと。備えあれば憂いなしって言うじゃないっスか。正直ぼくにはまだまだ、憂いだらけっスよ」


 確かに一理あるけども、わたし専用のアニマギアは自分の意思を伴わない場合やリオ以外の他人が無理矢理脱がすことはできないし、基本的にコレがなければわたしは日常生活すらままならないほどに貧弱だ。


 入浴時と就寝時以外は肌身離さず着用している。もはや第二の皮膚と言っても過言ではないのだ。


「それで、なんで、この、あちこちに微妙に膨らみがあるの……?」


「人体の急所には装甲を入れてあるっス。あ、大丈夫っスよ。なるべくリリさんの体型が変化しないよう、そこは細心の注意を払い慎重に調整したっス」


「何が大丈夫なのかはわからないけど、この膨らみは心臓とか肺を守ってくれるんだね。それにしてはやわらかいような気がするけど」


「何も硬ければ防御力があるというわけでもないっスからねえ。それに、誰かに触られた時にガチガチの筋骨隆々幼女だと誤解されるのもちょっと問題あると思うっス」


 確かに一理あるけど、幼女呼びはいい加減やめて欲しい。

 

「それに、神は細部に宿るっていうじゃないっスか。こだわりってものは物作りにおいて何よりも大事なんスよ?」 」


「細部に、ねえ……」


 装甲の分だけほんの少しだけ肉付きが良くなったものの、依然として幼児体型なのは変わらない。いや、実際幼児なんだろうけど。


 アニマギアの上から義体人形の毛皮でも着ればこの装備をほとんど完璧に隠蔽できるのではないだろうか。


 数年前、アニマギアの開発の初期段階そんな提案したらリオは「そんなのロマンに反するっス」とのことで、頑なに譲らなかった。曰く、ぱわあどすうつ、とはそういうものらしい。


 よくわからないんだけれどね。


「燃えてぼろぼろになった毛皮の中から黒くて無機質な装備が顔を出すって展開も中々にアツいっスね」などと一喜一憂したりしている。正直、わたしにはリオのロマンとやらがよく理解できていない。


 羽を生やすイメージの参考に昆虫図鑑を読み漁っていた。そもそも、妖精なんて物語の中でしか聞いたことがない。ちいさな導き手だったり、小生意気だったり、妙に几帳面だったりして、なんだかんだ文句を言いながらも最後まで物語を見守るそうだ。この世の冒険譚のほとんどの著者は実在する妖精だという噂を聞いたこともあるが、それを含めて物語の脚色だと思う。だけど、本当に妖精が物語を紡ぐのならば。


「ねえ、リオ」


「リリさん、どうかしたっスか?」


「わたしが妖精なら、リオの物語を書いてみようかな……」


 不意に口を突いて出た言葉に、一番驚いていたのはリオよりもわたしの方だった。


「って、あれ、わたし、何を言ってるんだろ」


 急に恥ずかしくなってきた。妖精だなんて言われて、その気にでもなったのだろうか。


 顔を覆いたくなる。


 指先に伝わる血潮の熱が引かない。きっとわたしは今までにないくらい赤面しているのだろう。リオを直視できない。


「リ、リリさん、ぼく、そういうつもりじゃなくて、妖精さんみたいに可愛いから、それくらい大切だからって意味で、傷付いて欲しくなくて、いや、でも、物語の主人公になれるってのも悪くないなぁ、なんて、冗談っス!叩かないで、本当に痛いっス!アニマギアの出力強いっ!暴力反対っス!」


 宙に舞い、一瞬でリオの背丈まで跳び上がると、そのまま肩に乗り、駄々っ子のように頭を叩く。


「リリさん、ごめんなさい!」



 



「なんじゃおぬしら、喧嘩でもしたか。使用人が慌てふためいておったぞ?」


 目を腫らしたリオがわたしをぬいぐるみのようにしっかりと抱き締めたまま離さない。リオの声を聞き付けて来たのはシーナ様だった。


「……まあ、よい。どうやらリリの方も程よいガス抜きができたみたいじゃ、今日も手解きを頼むぞ。流通させた者がアニマギアを使えんようでは示しがつかんからの」


 アニマギアの存在は公には伏せられていたが、シーナ様が医療用器具として目をつけてからは大衆から認知されている。


 ただ、元々アニマを使うことで身体強化を目的としたものなので、それを一般向けにする工程はリオでも中々骨が折れたそうだ。リハビリ次第では手足を自由に動かせるという謳い文句は当たらずとも遠からず、中々に難しい話だ。


 自分の体ではないものを精神力で動かす感覚を捉えることなんて簡単に説明もできない。わたしは身を持って知っている。立ち、歩き、座る。そんな簡単な動きができるようになるまでどれだけ転んだか。


 わたしが暴れないようにリオに抱かれながら、一緒に練習用の義体に入れられたシーナ様が何度も転ぶ姿を一緒に見せられている。日が傾くほどの時間が経ち、リオもだいぶ落ち着いてきたようだ。それだけの時間練習し続けていたシーナ様の集中力にも驚かされたが。


「ふむ、これは、なかなか、やはり御し難いな。骨や筋肉、神経なぞ、普段意識しないものを、意識するのも、肉体を離れて平衡感覚を鍛えるのも、気が狂いそうじゃなぁ。ああ、もうよいぞ。リオネッタ、元の体に戻してくれ」


 リオは、おどおどとしながら義体からシーナ様のアニマを抜くと、元の体に戻す。目を覚ましたシーナ様は激しく咳き込む。わたしは、シーナ様を介抱していたが、リオはまだわたしが暴力を振るうのではないかと警戒しているのか抱き締めて暴れないようにしてくる。後でちゃんと謝らないと。


「水です、飲めますか?」


「ああ。すまんなリオネッタ。……ふぅ、やはりなんとも慣れん感覚じゃなぁ。とはいえ、この技術は可能性の塊じゃ。現状の簡易アニマギアは既に義肢や運動のサポーターとして申し分のない性能じゃな」


「あ、はい、それは、その、献上品のほうは、扱い易さを重視してますので、決められた以上の力は出せませんし、無理に扱えばすぐに壊れるっス。悪用されることも考えて、予防策としてのコトっス」


「まあ、そうじゃな。絶対というものがないのが世の常じゃ。だから必要以上の能力を与えないのは英断じゃよ」


 そういえば、と。わたしは思い出したように口に出す。


「シーナ様の力で、そう言った人の治療はできないのですか?」


「わしとて、いくらなんでも失った腕や足は生やせんぞ。なくなったものはどうしようもないんじゃ。治癒も万能なわけではない故な。こうしてリオネッタに協力してもらっておる。こやつは自己評価が低すぎるのが玉に瑕じゃが、この分野における学者や研究者としては右に出る者は他におらん。そんな頭脳を腐らせるなど言語道断」


 リオは引き攣った笑みと共に視線を逸らしていた。たぶん、シーナ様はリオの苦手な人なんだと思う。


「いやいや、ぼくは、ただの、人形遊びが好きな変人っス。過大評価が過ぎるっス。胃が痛くなるので期待しないでくださいシーナ様」


「わしの義体も中々の出来じゃと思うがな。わしに従順な部下の魂を適当にぶち込んで公務を行わせて、悠々自適な隠居生活を送るのも悪くはないと思うんじゃが」


「……シーナ様、笑顔で恐ろしいこと言わないでもらいたいっス」


 リオのシーナ様に関する認識は、少なくとも謹厳実直で品行方正な聖女様像は既に粉々に崩れ落ちている。


 わたしも聖女様と聞いて、最初は同じような像を思い浮かべていたが、現実って残酷なんだなって思った。


 たぶん外交上では理想的な聖女様なんだろうけど。わたしが知っているシーナ様はお酒が大好きで泥酔したら誰彼構わず子供のように甘えはじめる。


 問題なのはお酒は好きだけどすごく弱い、そして酔った後に記憶が残らないタイプらしい。たぶんストレスとか溜まっているんだろう。


「別に好きで聖女とやらをやっとるわけではないぞ。元はと言えば、フランのわがままに付き合っていたら、いつの間にやら聖女様とか呼ばれるようになっておった。これが飲まずにやっていられるか」


 懐からスキットルを取り出そうとしたので没収した。


「なんじゃケチくさいのぉ」


「シーナ様が酔い潰れたらいったい誰が責任取るんですか、お酒弱いのに」


「やれやれ、あの親父の後ろにくっついてまわっておった可愛らしい娘っ子が小姑みたいになりおってからに、時の流れとは残酷じゃな」


 シーナ様は床に胡座をかいて、がっくりと肩を落として項垂れていた。


「し、シーナ様、昔のリリさん、気になるっス!」


「昔とは言っても、ついこの間かそこらの話じゃぞ。見た目はちっこいまま変わらんが、性格は随分たくましくなったものじゃ」


「誰のせいでしょうね」


「そういう笑顔で怒るところなど、親父にそっくりで嫌になるわい」


 お父さんに似ていると言われて表情が緩むけれど、いつかの帰り道に酒に酔ったシーナ様に胃の中身を吐きかけられたことを、わたしはまだ許していない。


「まあ、わしは嬉しいがな。おぬしら二人とも孫のような存在だと思っておるし、その二人が仲が良いのなら尚更じゃ。ところでどんなことで喧嘩したんじゃ、痴話喧嘩なら聞くぞ?」


「それは、その、さっきリリさんに殴られて」


「……竜人ともあろうものがあちこち傷だらけではないか」


「た、耐久性のテスト。わたし用の新しいアニマギアが出来たので耐久性をテストしていたんですよ」


「サンドバッグの間違いではないのか?」

 

 シーナ様が関わると面倒くさいことになりそうなので、それっぽいことを言っておく。


「ふむ、確かにリリは新しい装いをしておるのう。相変わらずピチピチとしたデザインじゃなぁ、素潜りでもするのか?」


「ぱわあどすうつ、らしいですよ」


「……パワードスーツとは、まあ、オタク趣味全開じゃな。次は合体ロボでも作るつもりか。おぬしは、本当に細かい作業が好きなんじゃなぁ。その山のような図体に似合わず」


「それも良いんスけど、ぼくはお人形とかそのお洋服を作るのが好きなので、ちょっと違うと言いますか」


「では、子供服など作ってみてはどうじゃ、リリも女の子なのだ、そう言ったお洒落もさせたらよいではないか。手作りとなれば尚更喜ぶと思うぞ」


 それは、欲しいかもしれない。


 クローゼットに入っていた人形の服はどれも可愛らしいものばかりだった。着るものにはあまり頓着しなかったけれど、行動範囲が広がり、人と交流する経験が増えると、自分が周りから浮いているように思えるようになった。


 普段着なんてなんでもいいとお父さんには言ったこともあったけれど、毎日同じ服ってのもちょっとおかしい。


 特に人の世の中では、誰かにおかしいと思われないようにするべきだと教わってからは、気をつけるようにしている。アニマギアを装備するようになってからは特にそうだ。

 

「ひきこもりのぼくのファッションセンスなんて、服を買いに行く服がないレベルなんスけど」


「そうは言っておるが人形の着ている服は素晴らしいではないか、研究には金が入り用だろう。わしも、支援するにも限度があるからのう」


 シーナ様は指でコインの形を表すようにして手をこまねいている。


「なんか、お金に汚い聖女様とか嫌っス!」


「何を言う、カネに綺麗も汚いもないわ。ほら、なんか有名な人間がかつて同じようなこと言っておったろうに」


「シェイクスピアのマクベスのつもりっスかあ?」


 竜人にだけわかるジョークのようなものだろうか。よくわからないけど、お金は天下の回りものとは聞いたことがある。多分意味合いは全然違うんだろうけど。

 

「でも、リオはずっとわたしのことでかかりっきりだったよね。自分の好きなことをやる暇もなかったんじゃないかな。『アヴァターラ』の研究だってしなきゃいけないのに」


「それもそうなんスけど、研究の次の段階は人体実験になるので被験者を集めるのも大変で、本格的にはじめるとなると様々な懸念材料が溢れてくるっス……」


「わたしのアニマギアはとりあえずひと段落したんでしょ。研究の為なら人肌脱ぐよ」


「それは心強いっスけど、やっぱり……こうなってくるとヘルメスの協力が欲しくなってくるっスねえ。ヘルメスは『アヴァターラ』の基礎設計を、この分野の先駆者とも言える存在っスから」


 ヘルメスって、わたしがリオネッタに出会うきっかけになった。手紙に書かれていた人だったっけ。錬金術師の界隈では権威ある称号のひとつで、その名前を襲名する習わしがあるけど、個人的にはよく目にする結構ありふれた名前だから特に気にしたことがなかった。

 

「ヘルメス・トリスメギストス。現存する旧人類の生き残り、人造人間(ホムンクルス)として今なお生きる存在じゃ、まあ肩書は大層ではあるが、リリよ。おぬしの職場で医者をやっとる若造じゃよ」


「わたしの職場、郵便局の医者……、ドクターが?!」


 今までこんな大声出したことがないくらい驚いたら、シーナ様はイタズラが成功したかのような子供のような笑みを浮かべていた。対照的に、リオの方は視線を逸らしていた。


「シーナ様、そんな酒の肴みたいにヘルメスの正体をバラすもんじゃないと思うんスけど……。あの子にも生活ってものが……」


「リオネッタよ、おぬしもよくヘルメスを使いっ走りさせておるではないか」


「そりゃあ、あの子にしか調達できない薬品とかあるし、そのまま運搬したら危険なこともあるし、怪しがられたら面倒だからぬいぐるみの中に入れて持ってきてもらってるだけで……」


「そんな回りくどいことをせずに助手にすれば良いのではないか?」


「いや、あの子は筋金入りの竜嫌いっスから、直接会うのは怖いんスよ……」


 ヘルメス・トリスメギストス。


 錬金術の始祖とも言われている偉大な存在のことを、まるで孫のように語る二人の間で、わたしの頭は真っ白になっていた。竜は旧人類のホモ・サピエンスが文明を築く以前から存在しているとは言われている。


 旧人類が絶滅したとされる崩壊期時代から、獣人類がはじめて文明を築き始めた再生期時代、竜族による統治が始まってからは竜暦と呼ばれた時代が最も長かった。


 そして、現在の時代は統合暦と呼ばれている。


 ヘルメス様は旧人類、人間で、でも今はわたしがよく知る駐在医のドクターで、イヌの獣人で、えっと、えっと。


「おい、リオネッタ。リリが目を回しておるぞ」


「あわわ、たぶんヘルメスが何年前の人物か考えちゃったんだと思うっス」


「うーむ、たぶん竜が十五から二十回くらい生まれ変わるくらいじゃろ」


「めっちゃ個人差あるっス。注意書きしないと怒られるレベルで個人差あるっスよ」


「わしは、前回二万年くらいは生きたかもしれぬな」


「そんなお年玉自慢する子供みたいに言われてもわからないと思うっスよ」


「面倒なやつじゃなあ、何年前とか何歳とか今更どうでもいいじゃろ。今生きておるなら知恵でもなんでも借りればよいではないか」


 不老不死が歳を気にして目を回すなんて、随分と皮肉が効いていると思う。


 しかし、亀の甲より年の功ということわざがあるように。途方もないくらい長く生きてきた竜の対人関係というものは凄まじい。まさか、本物のヘルメス様が信じられないくらい身近な存在だったなんて思いもしなかった。


「ヘルメスで思い出したが、リオネッタよ。おぬしがヘルメスの師をしている頃に名乗っていた名前があったな、たしか、かど、かでゅっ」


 シーナ様が言い終わる前に口を掴んだリオネッタが珍しく怒った様子で「流石に人の黒歴史を肴にするのは許せないっスよお」と珍しく怒っていた。


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