第2話
翌日の深夜、伊藤に教えられた手順でウェブセミナーに参加した。LIMEに登録して、そこから指定のサイトに誘導された。
参加と言っても、話を一方的に聞くだけだったが、元本保証・高利回り・高配当だのの説明と実績を示すグラフなんかを見せられて、饒舌な講師?が巧みな話術で引き込んでいく。
こいつ、話が上手いな、これくらい喋れれば俺だってもっと上手くプレゼン出来るのに、などと感心させられた。
それに加えて、実際に百万円が八千万になっただの、二百万が一億になって、悠々自適に暮らしてますだのという体験者の話などを聞かされて、終わった後には俺はもうネットで専用口座を作り始めていた。
伊藤に倣ってとりあえず百万だけ投資した。すると翌月には
投資を始めてから半年後、俺の配当金は七十万円になっていた。
そこで俺は会社の同期を誘ってみた。出資者が増えれば増えるほど、利率が上がっていくと聞いたからだ。それに、友達を紹介するとキャッシュバックがある。
伊藤もそれで俺を誘ったんだろう。ズルい奴。いや、俺も同じ穴のムジナか。まぁ、儲けさせてやるんだから、これはこの上なく親切な行為だ。
そして、俺は、退職も考えていた。そのことも言っておきたかったのだ。
「そりゃ詐欺じゃないのか」
同期の髙橋は、開口一番そう言った。
「俺も最初はそう思ったんだけど、ほらちゃんと配当が入ってる」
俺は伊藤が俺にしたのと同じように、髙橋にネットバンクの通帳を見せた。
「へぇ、すごいな」
髙橋はやっと信用したようだ
「でな、会社辞めようと思うんだ」
「ええ〜っ、別に辞める必要ないだろ」
「もう、疲れたんだわ。勿論、月五万じゃ生活出来ないから働くけど、もっと楽な、自由時間が取れる仕事探す。非正規でいいからさ」
同期入社の髙橋も別の部署で俺と同じ中間管理職だ。同様の生活を送っている筈だ。いい加減疲れ果てていると、時々愚痴を
「非正規だと年金出ねぇぞ。それに投資ならNISAとかでいいじゃんか、安全だろ」
髙橋は、正論をぶっ込んできた。そういえばコイツは堅実が服着て歩いてるような奴だった。人選ミスか。
「あれは長期だろ。それに、年金なんか当てにならねぇぬし、この投資ずっと続けてれば、そっちの方が効率がいいぞ」
「ま、俺はいいや。それから、会社辞めるの、俺は止めたからな。覚えておいてくれよ」
そう言って髙橋は、去っていった。
『まぁいいさ、後で吠え面かくなよ』と、口には出さなかったが、髙橋の背中にそう呟いた。
その後は他人を誘わなかった。後でこれは良い選択だった事が分かったのだが。
翌日、俺は退職届を提出した。そして、もう二百万追加した。全部で五百万出資したことになる。
翌月は配当金が来なかった。
まぁ、運用だから、こんなこともあるかと、俺は気楽に考えた。
しかし、その翌月も配当はなかった。
おかしいと思って、サンプレミアム社に連絡したら、ロボット音声が流れて来た。
『おかけになった電話番号は、現在使われていません』
ネットのサイトも消え去っていた。
俺は詐欺にあったのだ。
伊藤にも連絡したが、伊藤の携帯も『使われていない』状態だった。LIMEもいつの間にか消えていた。
伊藤もグルだったのか。
第三話に続く
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