第7話 家政婦は聞いた
「綾さん、何か食べられない物とかありますか?」
「いえ…」
「なら、お好きな物は?」
「いえ…」
「そうですか…なら、何か美味しかったとか有れば何でも仰ってくださいね。」
「はい…有難うございます…」
綾さんは私が家政婦で働いているお宅に最近引き取られて来た。
ここのご主人、三ツ矢赤彦様の外に作った娘さんだ。
三ツ矢様は三ツ矢グループの代表取締役社長だ。
ご長女の小百合さんの2つ下だ。性格は正反対で、綾さんは必要な事以外喋らない。
見た目も顔に大きめの痣があり、気にされているのか前髪を長めに伸ばして隠していて、普段から俯きがちだ。
ここのご家族はお互い干渉しない性格の方ばかりなので、綾さんに対してもさほど気に留めていないご様子だった。
のだが…
「そうだよねえ。人の男をかどわかす魔性の18だったわー」
あの小百合さんがこんな事を言うのに正直驚いた。
今までは我関せずを貫く人だった筈だが…
最近綾さんに対して当たりが強い。
特に小百合さんの婚約者の隼人さんと綾さんが鉢合わせるとこんな感じになる。
こんな男に嫉妬する事に驚いていた。
元々私がこの家の家政婦に入り込んだのは、この小百合さんの婚約者、隼人が目的だった。
隼人は御子柴家の長男、御子柴会長の経営するリオナグループの跡継ぎの予定だ。
隼人は女癖が悪く、依頼者の娘も中絶させられていた。
金の力と権力で口封じされて泣き寝入りとなった。
その娘もこの先妊娠は難しいと言われた。
他にも被害者はいる。
この先被害者は増える可能性が高い。
隼人には弟も居てこちらは真面目で優秀なので、寧ろ此方が跡継ぎになった方が世の中の為になるだろう。
御子柴家は高木組との繋がりが有り、そこに潜入するのは危険だったので、婚約者の方に潜入した。
普段も隼人は夜など1人で外出する時は監視されていて中々近づけない。
この家に定期的に来るので何とかここで事故などに見せかける機会を狙っていた。
観察していると隼人はどうやら綾さんに気がある様だ。
綾さんの方は全く気がなさそうに見える
寧ろ…
怯えている様に見えた。
既に何かされたのだろうか?
やはり娘に近い年頃の子が心配になってしまう。
意を決して綾さんに尋ねてみた。
「綾さん、何か悩みとかないですか?」
「いえ…皆様良くして下さって感謝しています…」
小百合さんの事は気がかりだったが先ずは隼人の事を聞き出そう。
「あの…差し出がましいようで何ですが…私は綾さんが隼人さんに怯えている様に見えたので…何かされたりしていませんか?」
「…」
「綾さんが心配なので申しますが…私の娘はストーカー被害に遭って自殺しました。」
「えっ!?」
「なので…年の近い綾さんの事がつい心配になってしまって…ごめんなさいね」
「あの…隼人さんに何かされたとかでなくて…」
「はい」
「私はここに来る前に施設に少し居ました。」
「はい」
「そこで…男の職員に襲われそうになって…それから男の人が怖くなって…私、今まで人に優しくされた事が無かったので」
「…」
「その人は初めて優しく声を掛けてくれて…嬉しかったんです。私が頑張ってるから皆に内緒でお菓子あげるって…部屋に連れ込まれて…何とか未遂で終わりましたが…」
「そうだったんですか…」
綾さんも…
人の弱みに漬け込んだ卑劣なやり方に許せなくなっていた。
依頼でなくても、ここが片付いたらそいつを狙おうと思った。
「なんて名前の人ですか?」
「柿安と言う人です…」
アイツが…
まだそんな事…
「その人はどうなったんですか?」
「分かりません…警察に突き出すとは言ってましたが…ただ施設から消えたので本当にそうしたかまでは…」
「そうですか…綾さんのいた施設はなんて所ですか?」
「光の丘と言います…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます