第6話 世界に1人だけの人
「理沙がね、自殺する前に私に言ったの。あれは全部嘘だって。こうだったって。でも認められなかった。アイツみたいに音声も何もなかったから。」
「そう…」
「どうするの?詩織…」
「もう…警察に失望してる…こんな状態じゃ私働けない…」
「そっか…ゴメンね…私何も役に立てない…」
「ううん…話マトモに聞いてくれるの洋子だけだもん。旦那も死別してるしね…」
「ストーカーの証拠まで有るのに、なんでアイツの仕業だって認められないのよ!」
「あはは。有難う。私もう怒る気力も無かったから洋子が代わりに怒ってくれてちょっと清々した。」
「じゃあ…詩織はやっぱり警察辞めるんだ…」
「うん…」
「それでも…私は詩織の友達だからね。何かあったら遠慮なく相談して。」
「有難う…心強い…」
○○○○○○○○○○
友達の話になって警察を辞めた時の事を思い出していた。
「そっか。その犯人は今どうしてるの?」
「分からない…家がお金持ちみたいでね。働かなくても何とかなるんでしょ。実際かなり優秀な弁護士つけてねじ伏せられちゃったしね。」
「ふうん」
「忘れちゃいけないんだけどね…自分の無力さを思い知るのが嫌だって結局逃げてるのかな。実際死んだ理由って自殺だしね。」
「でも自殺した理由はソイツなんでしょ?」
「そうね。でも私には未然に防がせる力があった。でも出来なかった。あの時ああしてれば、こうしてればって思うとね、結局自分のせいかなって思うんだ。」
「ふうん」
「結局私はソイツに手を下す勇気も無いから代わりに他の苦しんでる人の原因を消してるだけなのかもね」
「佐川さんは1番消したい人は消せないんだね。」
「そうね。」
「ふうん。じゃあソイツ以外をこの先も消し続けるの?」
「どうだろなあ。いつかは私は捕まるか殺されるか…だろうね。でもそれで良いんだ。家族も…理沙も居ないしね」
「でも友達はいるんだよね?」
「…」
「佐川さんが居なくなったら寂しがるだろうね」
「かもね。私も洋子が居なくなったら寂しいかな」
「じゃあ、そろそろ夜明けが近いから…また来月にね。ふふふ」
そう言ってミロ君は去って行った。
洋子が居なくなると…
私は平気で居られるんだろうか…
○○○○○○○○○○
「洋子、久しぶりだね。どうしたの?」
警察を辞めてから久々に洋子から会おうって連絡が来た。
その頃にはもう、私は何人か依頼されて消していたので、もしや嗅ぎつけて逮捕されるのかと思った。
でも洋子になら捕まっても良いなって思っていた。
「詩織…私警察辞める事になった。」
「えっ!?」
「ゴメンね…詩織の役に立ちたかったんだけどね…もう出来そうにない…」
「何で!?何かやっちゃったの!?」
詩織は人一倍正義感が強かったので、警察を辞めるまでの事が分からなかった。
「あのね…私が何かした訳じゃ無いんだ。」
「?」
「明久さん、今マトリしてるの知ってるよね?」
「うん。」
明久さんは元刑事で洋子と社内結婚した人だ。洋子が好きになって押しかけ女房になった。
明久さんは結婚した後元々目指していた厚労省の麻薬取締官になっていた。
「明久さんがね、囮捜査でヘマしてね、相手が反社だったから家族への報復を懸念してね。実際私もかなり危ない目にあったの」
「知らなかった…」
「だから私は明久さんと別れて戸籍を変えて別人になる事にしたの。このままだと警察にも迷惑がかかるから…」
「そんな!」
「実際なりかけたの。警察の不祥事の罪を擦られそうになってた。ニュースになると大変でしょ?世間の人は事情なんて分からないから」
「それは…警察の圧力もあるのね…」
「恐らくね。最大多数の最大幸福ってやつね。」
「…」
「私は今度から野原沙恵だから。間違えないでね。あはは」
「私は洋子って呼ぶから!」
「仕方ないなあ。人前では呼ばないでね。」
「…あのね…私…人前にはもう出られない…人前で洋子って呼べない…」
「?」
洋子にはもう話そうと思った。
今やっている事を洋子に告白した。
「私を逮捕する?」
「野原沙恵は詩織と同じ一般人だよ。」
「…」
「私は詩織のやってる事よりも私の夢や希望や人生や幸せを滅茶苦茶にした高木組を許せないの。」
「私はそう言う人間。警察には向いて無かったのかなあ。」
「そんな事無い!」
「私はやられたまま泣き寝入りする人間じゃ無いの。詩織も良く知ってるでしょ?」
「うん…」
「私は私のやり方でやってく。詩織の事知れて良かった。決心ついた。」
「私…余計な事言っちゃったのかな…」
「ううん!やっぱり私と詩織は友達…同志だって分かった。あはは」
「何か心配…」
私の事を唯一知っていて、洋子の事を唯一知っている私…
この世界にたった1人しか居ないみたいに思ってる洋子が居なくなったら私は生きていけるのだろうか…
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