唐紅の朝顔
運天親方忠明
第1話 雨日(うじつ)の贈り物
ここは国場山と言う山に囲まれた小さな町。
西に行けば農村で、東に行けば都会である。
これはそんな小さな町のとある小さな食堂の物語である。
ここは国場山の東:伊礼町――――
この町では人々が日々往来し、国場山の重要な産業都市ともなっていた。
そんな町の一角にポツンとたたずむ一軒の小さな食堂があった。
創業86年の食堂「TEDAKO」であった。
この食堂は地域の共同体の1つとして機能していて、常連の客や観光客、しまいには産業大臣や食にまつわる大御所までもがこの食堂を日々利用していた。
そんな食堂を経営するのは地元から「きーちゃん」と呼ばれている食堂の3代目女将の喜代であった。
彼女は非常に人当たりが良く、観光客や、新規の客でも1度通ったらはまってしまうそんな人々の心の拠り所となる場所になっていて常連の客からは「TEDAKO」がなくなってはどこへ行けばわからない。」と言われるほどの名店になっていた。
そして、この食堂にはもう1人「看板娘」と言われる存在がいた。
それが喜代の娘の「沙代」であった。
彼女は中学校3年生であったが学校に通いながらも休日は母の店を手伝っていて
地域のちょっとした宝にもなっていった。
そんなある日の事であった。
「沙代ー!ちょっといいかしら?」
「なに?お母さん、どうしたの?」
沙代が少し首を斜めに傾けた
「西の産原村まで行って食材調達してくれないかしら?」
「いつものところの?」
「そうよ!『中西さん』のところに行ってね!」
「わかったわ!でも西の産原村に行くのに少し時間かかるけど大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫!私たちの食堂の食材は全て地元のを使うって、沙代のひいおばあちゃんの頃からの決まりだからね!この食堂のお・き・ま・り・ご・とだから!」
「はぁ⤵まぁいいつものことだしね!」
こうして沙代は歩いて西の産原村に行った。
西の産原村にて、
「沙代ちゃーん!元気しとったじゃけんかー!」と1人が言うと
「我々の小さな女神さまが今日も来られたぞー!」とまた1人が言い
「あーら!沙代ちゃん!またべっぴんさんなってー!なー?」と村のおばちゃんたちまでもが沙代の事を喜んで歓迎していて、
まるで沙代の事を女神の様に崇め奉っていた。
「沙代ちゃん今日はどうしたつんか?もしかして、また1人で買い出しかいな?!」
と村の農家が言うと
「えぇ、まぁ、そうです。母が1人で食堂を切り盛りしていて大変だろうなってことで。」
沙代は少し照れながら答えた。
「あらまぁ、偉いわねぇー、今どきの若い子にこんな純粋な子がいるとはねぇー」
とまた川の漁師言うと
「きっと、お母さんの喜代さんがとても良い人で育児がうまいからとちゃいますかね?」
次は村の花屋の店主が答え
「そうよ!そうよ!きっと喜代さん、上手そうよねぇ~!」
と母である喜代の話にいつの間にかなっていた。
そんな村のおばさんたちの会話を聞きながらも沙代は村の長である『中西』さん宅を目指していった。
そうして着いた中西宅では、
「沙代ちゃん、悪いねぇ~うちの親父がぎっくり腰で腰を痛めちまってよ~」
と息子さんが話すと
「いえいえ!文蔵さんにはいつもお世話になっていますしこれくらいどうってことないですよ!」
と沙代が言う
「まぁ、ありがとさん!で?嬢ちゃん今回の食材は何がいるんだい?」
「えぇっと~?」
困りながらも母から渡されたメモを読んで
「それじゃあ人参、白菜、小松菜、キュウリ、ジャガイモ、トマト、レタスに後、旬物の果物をください!」
と沙代が元気よく答えると、
「あいよ!人参、白菜、小松菜、キュウリ、ジャガイモ、トマト、レタスね!後は、これ!」
そういって息子さんが出したのは大量に箱詰めされたサクランボであった。
それを見た沙代は驚きのあまり目を丸くさせて
「えぇぇぇ!!!!こ、こんなにもらっちゃっていいんですか?」
と沙代が言うと
「あぁ、もってけもってけ!どうせ売れても商売人は上等な奴しか買わんからいいよ!」と息子さんが少し呆れた口調で言った。
こうして沙代は、中西宅から荷物を載せる木製の引き台車を借り、食堂へと戻っていった。
その道中、
「ふっふん♪今日はこんなにたくさんもらえるとはなぁ~家に帰ったらお母さんに話そう!」
沙代は気分上々な心持で帰路についていたのだが
しばらくして雲行きが怪しくなりとうとう雨も強く降り出してきた。
そして、沙代はザァーザァーと強さを増す雨に大事な食材を濡らして腐らせまいと近くにあった古い屋根付きバス停留所に荷物を載せる木製の引き台車ごといれて雨宿りをしていた。
雨音が強くなるにつれ、後ろの森がオルガンのように不思議な音色を奏でていた。
そんな中でも雨は強くなっていった。
その時であった。
「はぁ、急な雨にやられて食材は無事だけど私は下がびしょ濡れだわ・・・」
そうして雨宿りしている場で濡れたズボンを乾かしていた.
「よーし!これで完了!しばらくしたらある程度乾くわね!・・・ってあれ?何か聞こえる?」
実はその時、沙代が居た古い屋根付きバス停留所の外から微かに聞こえる異音がしたのであった。
その音を聞くや否や沙代は音のする方へと顔ごと傾けた
だが強烈な雨で何も見えなかったが ふと、鈴のようにかすかではあるが確かな命の叫びが響き渡っていた。
そしてしばらくして雨が弱まりある程度落ち着いた頃に音のするほうへと出向くと
ポツンと1つ竹製の籠が置いてあった。
そして沙代は籠に近づき、
「なにこれ・・誰かの置忘れ?」
そして沙代がそっと優しく上部の蓋のような部分を取ると中にはなんと!
まだ生まれて間もない赤子がいるではありませんか!
しかもぎゃんぎゃんと泣いていて弱弱しい衰弱状態にもなりかけていた。
それを見て沙代は夢を見ているのかと言わんばかりに目を丸くさせ、
「なんで、この子がこんなところに?」
そう言いつつも赤子をやさしく抱き上げて、あたりを見渡して
「この子、どうしてこんなところに?」
そうして沙代が困惑しながらも赤子が入っていた籠を見ると、1通の手紙のようなものが入っていた。
沙代はそれを手に取り(赤子を抱きかかえながら)読んでみたのであった。
その内容は、
↓
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
御心の全き清らかなる人へ、
これをお読みになられたのでしたら、
お願いがあります。
それはこの子を代わりに育ててはいけませんか?
無理承知の難題としては分かってはおりますが
どうぞ、貧しき私たちでは育てることも、手を付け
てやることもできません。
どうか、お願いです。
匆匆、赤子の母より
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
と書いてあり沙代は更に衝撃を受けた。
こうして沙代はこの赤子を己の子として育てるという事を静かに決意し、
中西さん宅から借りている荷物を載せる木製の引き台車に赤子が入っていた籠を乗せ、赤子は応急措置として、たまたま荷台にあった紺色の兵児帯でおぶった。そうして、そのまま母の待つ食堂へと帰っていったのであった。
そうして食堂のドアを開けると、そこには開店前の店の中で母が机を拭いていた。
「あらぁ~!沙代かえって来たん・・・・ってあら?その抱いてる子は誰だい?沙代?」
その表情は、怒りではなく、少し苦笑い。けれど、ほんのわずかに不安も漂っていた。
「実は……お母さん……」
果たして、この子の運命は――。
また次回へ。
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