第2話 異世界転移

 2045年、東京都内のとある街。

 俺の研究室ラボは、この街にある首都大学総合研究センター内にある。

 ここで俺は戦闘用ロボットを開発・研究しているわけだが、それには理由があった。


 銃弾やミサイルが飛び交い、地雷の埋まる戦場では、機械が人に代わり戦うのが避けようのないトレンドだ。実際に誘導型ドローンによる戦闘は日常化し、戦闘用の自律型ドローンも実用化されはじめている。

 そのため、こんな研究にも需要があるという訳なのだ。


 現在開発しているのは、二足歩行の人型GRZ04と四足歩行の犬型GRR05の二タイプだ。――ちなみに、犬型については、俺のこだわりで狼型と呼んでいる。


 人型のGRZ04は遠隔操作型で、狼型のGRR05は自律的に動き、人型をサポートする。どちらもコンピュータ上のシミュレーションによって、AIの運動機能の育成を数万世代にわたって進めており、実に滑らかに動くことができる。


 GRZ04は、身長三メートルあるものの人間の二倍の速度で動き、出力は十倍ある。人間の二倍という速度は大したことが無いように感じるかもしれないが、実際に見ると、目にもとまらぬ速度で動くというのが実感だ。走れば高時速七十五km程度まで出るし、通常の人の二倍で加速して動くのだ。


 一方GRR05は、体長二メートルで、GRZ04と比較するとパワーはかなり少ないが、さらに速く動く。野生の灰色狼のおよそ二倍の速度だが、GRZ04と比べ約四倍程度の速さになるのだ。目視で動きの全てを捉えることは、かなり困難だろう。


 おまけにチタン合金と高硬度カーボンでできたフレームには、最新の複合装甲が施されている。通常の兵士の使うライフルや突撃銃では何のダメージも与えることはできない。


 弱点と言えば、エネルギー源である電力が一時間も動くと切れてしまうことだった。目下の目標は、最低でも二時間は電池の換装なしで動くこと。

 だが、電気の消費量を下げようとAIを制御すると、動きが悪くなってしまう。それでは元も子もなかった。


 次の最終試験が終われば、銃器や小型ミサイル等の搭載についても準備が始まることになっており、AIも既にそれらの武装に対応したヴァージョンが搭載されている。

 だが、今のところの固定武装は、GRZ04の右手に装備される高周波ブレードナイフ、GRR05の高周波ブレードの牙と前足の爪だけだ。


 お前たちには人殺しはして欲しくないな。

 俺は心の中で呟くと、二体のロボットの白く輝く流線型の装甲と固定武装を眺めた。


 専守防衛が自衛隊の大前提。

 こいつらが他国の侵略のために使われることはないはずだ。だから、本当の戦闘の機会もそうそうはないだろうが――。

 俺は息を吐いて、護雷神と護雷狼のカメラ・アイを見つめた。


 ――それに、今までの評価されない人生で、これが最後で最大のチャンスだ。余計なことを考えている暇は無いぞ、御岳護よ。


 俺は自分で自分に語りかけながら寝不足の目をこすると、ノートパソコンを手に操縦用のコンソールに座った。各数値のパラメータに異常が無いことを確認し、電源を落とそうとした……その瞬間だった。


 ゴ、ゴウ――ッ!!

 地鳴りのような音が鳴った。

 思わず身構えた次の瞬間、

 ガタ、ガタ、ガタ、ガタッ!!

 と、周囲のものが激しく揺れだした。


 地震かっ!?

 部屋全体が突き上げられるように揺れた。

 部屋だけじゃ無い。建物が大きく揺らぎ、自分の足では立てなくなる。


 ここは研究センターの四階。すぐ下のフロアには高エネルギー物理実験を目的とした衝突型加速器があって、確か今日実験をしていたはずだ。大丈夫なのか!?


 そう考えている間にも、揺れは凄まじく大きくなっていった。

 耳をつんざくような轟音が鳴り、目の前が真っ白に光る。かと思うと、身体が浮遊感に包まれた。


 一体、何が起こっているのか!? 俺には今起こっている事態が全く把握できなかった。

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