第3話 準備をしていた日
神の爺さんとの邂逅を終えた数日後。
昨日までは異世界の選定を終え、異世界で通用しそうな護身用のスキルを自分に付与していた。
剣術や体術はイメージがしやすかったので真っ先に生み出したし、身体能力は既に人間の領域を超えているだろうな。
いまならたぶん、銃弾すらも見てから回避できる。
また自衛手段だけでなく、万が一のための回復手段にもスキルを重ね掛けしている。
自己再生、回復魔法に結界魔法といった具合に。
魔法に関しては色々課題が多かったけどね。
まず地球上でスキルや魔法が使えるのかと動作確認したところ、この宇宙の法則にそもそも魔力が無かったので最初はどれも不発だった。
そりゃ魔法は魔力エネルギーを消費して奇跡を起こすことをイメージした技術だ。
その前提で現実改変をしても、技術がいくら理解できていようとエネルギーがなければ何も起きないだろう。
剣術や体術、ベストコンディションや肉体強化系の能力は魔力がなくても宇宙の法則と矛盾しないため、現実改変で直接肉体に作用した。
だが、魔法にはその定義がそもそも宇宙にないので、まずは魔力エネルギーを地球上に供給するところから始めなければいけなかったのである。
神の爺さんあたりならゴッドパワーで、じゃあ今日から魔法使えるよ~、みたいに現実改変できたのだろうが俺には無理だ。
これでも人間スケールに力を調整されているからな。
なのでまず、魔力粒子という謎の新元素を無限に放出するように、エアコンを現実改変で改造した。
その結果、いまのところ俺の部屋限定で魔法スキルが使えるようになった。
そこからは魔力粒子が地球全体に拡散するように、伝説のある土地やパワースポットと呼ばれる土地を巡り、世界の各地へ転移して魔力粒子が生まれるよう地質の改変を続けていった。
こうして特定の土地が魔力粒子を生み出す龍脈になったほか、人々に祭られている大岩とかご神木からも魔力粒子が生成されるよう改変できている。
これで異世界から帰ってきた頃には、地球にもうっすらと魔力が満ちているはずである。
そして現在、土曜の昼。
俺は近くのホビーショップまで車で移動し、現実改変と相性の良さそうなオモチャを爆買いしていたのであった。
ゲームに出てくる伝説の剣とか、プラスチックの宝石が埋め込まれた仰々しい指輪とか、現実改変の媒体になりそうなものはいくらでもある。
異世界ではこれらを利用して現地に溶け込むつもりだ。
ただし、肉体が数年分若返っているとはいえ、大の大人がこんなオモチャを爆買いしていたら変に目立つ。
もしかしたら転売目的なのだろうかと、こちらを警戒している店員さんの視線が痛いがどうしようもない。
オモチャの剣なんて種類別に買い占める勢いでカートに入れているので、遠目ではそう思われてもしょうがないけどもね。
しかし一々恥ずかしがっていてもしょうがないので、ここは面の皮を厚くして無理を通すしかないな。
能力の媒体を仕入れるために、これからもホビーショップにはお世話になりそうだから、むしろ店員さんに近づいていくべきだろう。
とりあえず声をかけてみる。
「いや~、あははは……。よく懐いてくる甥がこういうの好きでしてね。どうにも甘やかしてしまうんですよ。最近男の子に人気のオモチャとかありますか?」
「あ~、なるほどなるほど。子供の頃って、こういうオモチャを持っているだけでヒーローですからね。お客さん、良い親戚のお兄さんしてますよ」
おお、どうやら好感触。
店員さんもカートの中をちらりと見て、選ばれた商品が転売用ではないと気づいたのだろう。
まあ、よく見れば同じ商品を爆買いしているわけじゃないからな。
遠目では複数のカートからはみ出すほどの量だけど、近くで見れば商品の統一性がないことに気づく。
いやあ、心が少し軽くなった。
「では、こちらの竜のフィギュアなんてどうでしょう?」
「え? これめちゃくちゃ精工じゃないですか? 最近の子供は贅沢だなぁ」
「今流行りのカードゲームのエースモンスターがモデルなんですよ、最新の商品なんです」
話の流れで店員さんにオススメされたのは、なにやらメタリックな見た目をした黒龍のフィギュアだった。
うーん、武器ならともかく人形はなぁ。
いや、現実改変を工夫すればこれも媒体になるか?
今のところ俺の能力はかなり幅広く応用が利く。
黒龍のフィギュアという実物が現実改変のイメージに繋がれば、これを本物のドラゴンとして再現することもできるかもしれない。
ようするにフィギュアという造形の型ができているのだから、問題はサイズと能力だけだ。
サイズは物質改変でどうとでもなるし、それこそ能力なんて直接付与すれば良い。
まあ付与した能力で無理やり動かしているだけなので、厳密には生物と言えないかもしれないけども。
俺に与えられた現実改変に、そもそも生物を生み出す能力なんてものはないのでしょうがない。
そこは諦めよう。
しかし問題は生きているかどうかではなく、巨体のドラゴンフィギュアがこちらの手駒として運用できるかどうかだ。
ようは巨大ドラゴン型のアンドロイドだ。
指示に従ってくれて便利で強ければなんでもいい。
うーん、いけそう。
よし、これも買っておこう。
というわけで爆買いした俺は車で自宅のアパートに帰り、購入商品に現実改変を続けていくのであった。
そして翌日、神の爺さんと邂逅してから一週間後の日曜日。
数が多かったため購入したオモチャの現実改変には丸一日かかったが、なんとか準備を終えることができた。
現実改変したオモチャの能力はネットで設定を調べ、とりあえずそのまんまの能力として再現した。
いや、やろうと思えばどんな能力でも人間スケールで再現できるのだが、あまりにもオモチャの数が多いので考える労力がキツかったのだ。
最初から現実改変先の説明書があるならそれに越したことは無い。
というわけで、斬った相手の時間を止める剣とか、そういうあまり無茶な能力はスケールダウンしてしまったが、かねがね装備は整った。
ちなみに斬りつけた相手の時間を止める効果は、斬りつけた対称を固める能力に変化していた。
水道水を斬りつけたらカッチカチの氷になってたよ。
うん、分子運動を固めたから熱エネルギーが落ちて自動的に凍ったってことね、わかります。
だが、これはこれで強い。
もはや伝説の剣と言える。
時間を止める剣じゃなくて氷結させる剣になってしまったけども。
そんな様々なスケールダウンがありながらも、ようやく準備を整えた俺はいくつかの現実改変した装備を身に着け、雑貨をカバンに放り込み異世界へと転移した。
思い浮かべるのは剣と魔法のファンタジー世界。
まずはそれなりに治安が良い地域で、俺が目立たない程度には異種族や他国の旅人が受け入れられる、交易都市。
……こんなところかな。
「……よし、転移!」
次の瞬間、目の前にはレンガ造りの建物が広がり、露天商の呼び込みや剣や槍を背負った傭兵たちが行きかう、活気ある街に訪れていたのであった。
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