マジカルピエロン🤡の妖しいコンパクト
深夜明星
第1話 決意ときっかけ
俺は、小さい頃から人より手先が器用だった。
壊れた物も元通り直せるし、ちょっとした道具を自分で作ったりする。
もちろん出来上がりも売り物になるレベルでしっかりしている。
しかも自作の道具に魔力を込められる。
魔力に関しては何でも思い通りになるほど万能ではないし、使い方にも制限があるとはいえ、俺だけの特別な能力と言える。
─ある時、俺は必要に駆られて変身コンパクトを作った。
それは女性受けしそうな、蓋に大小のキラキラのビジューをバランス良く嵌め込んだ可愛いデザイン。
変身物アニメやSNSなどで研究した結果だ。
コンパクトは誰でも鞄に入れて持ち歩けるし、きっと役に立つと思った。
ただ、まだこれを渡す相手はいなかった。
─半年ほど前のことだ。
ネットで衝撃的なニュースが流れた。
ストーカーに若い女性がナイフで襲われてしまった。
ニュースの出始めは情報の錯綜に乗じて、なぜか被害者と加害者の顔写真が出ていた。
被害女性はネット上がざわつく程可愛らしい容姿だった。
こんなに可愛らしい子が…
地元で評判だったらしい…
何度も警察に相談していたらしい…等
彼女に関するたくさんの情報を見た。
犯人は彼女の顔にいくつも傷を付けたらしい。
命は助かったが、ニュースでは重傷とあった。
それだけでも痛ましいニュースであったが、その後更なる悲劇を知る。
彼女と付き合っていた男性が命を断ったのだ。
彼女を守れなかった事が原因だったらしい。
とても悲劇的な事件だった。
みんながこの若いカップルに同情的だった。
このニュースを知った日からずっと二人の事が頭から離れなかった。
こんな悲劇が二度と起こらない社会にどうしたら出来るのだろう?
生きることには超絶不器用だが、手先の器用さと魔力を持った自分にも何か出来ないかと考えた。
せっかくの特別なスキルを役立てたかった。
俺はお金持ちとは言えないまでも、幸運にも不動産収入で普通の生活が送れている。
だから魔道具作成時間も取れる。
それに家に篭りがちで物作りやゲームに没頭していてあまり異性との接点もなかったから、外に出て出会いのきっかけにもしたかった。
これまで恋愛要素ゼロで生きてきた俺。
出会いはまあ、今さら期待出来ないだろうけど…
とにかくやるしかない!
使命感が俺を突き動かした。
変身コンパクトを作り上げた俺は外に出掛けて人通りのあるところや、ひと気のない通りをうろついたりと、救うべき女性を探した。
しかしそんな女性が都合良く見つかるわけが無い。
女性を物色する変質者にしか見えないという事実に気づくと急に恥ずかしくなりそそくさと家に戻った。
そして数日後、今度は不安と恐怖を感じている人間を見つける"高ストレス探知レーダー"を作成した。
するとなんと驚くべき事に、お金で失敗した男性が引っ掛かりまくった。
お前らは…自分でなんとかしてくれ!
俺はまた家に戻ると試作を繰り返し、性別や年齢の設定を切り替えられるようにした。
こうして、俺は初めてストーカーに怯える女性を見つける事に成功した。
これで暴力を未然に防ぐ手助けが出来る!
そう確信した。
なのに…
「あ…あなたの事を信じるなんて無理です!」
女性は小声でごめんなさい、と付け加えると、自転車を全力で漕ぎ出してあっという間にいなくなった。
「…そんな…ま…待って…話を…!」
完全に不審者扱いだった。
それもその筈、突然声をかけた俺はピエロの仮面を付けていた。
若い女性に素顔で話しかけて、更に魔道具を渡す勇気なんて無かったからだ。
ピエロの仮面を被らないと女子と話せない程耐性がないと言う事実は俺の心を抉った。
いや、正確には、ピエロの仮面がなければ女子とまともに話せないことにずっと気づかずにいるほど……女子と縁がなかった事実が俺の心を抉った。
マジか…何なんだよ俺の青春!
てかそもそも青春なんて存在してなかったわ!
家の中に居すぎたからな!
キングオブインドア派め!
ひとしきり自分に悪態をついた。
"人助け"─
か弱き女性の力になりたいなんて傲慢な夢を持つべきじゃなかったのかも知れない…
でも、さっきの子…大丈夫だろうか。
明らかに変な男につけ回されていた。
なのに俺が現れたせいでストーカーが二人になったと思ってたらどうしよう。
ああああああ…!
辛い…。
人の役に立つどころか現時点で問題を増やしただけとは。
いや待った!待つんだ俺!
ここで諦めたら誰も救えない!
まずは仮面のピエロのデザインを少し柔らかくして…そうだ、
"マジカルピエロン"と名乗ろう。
俺は断じて怪しい者ではない!
声のかけ方も工夫して、このコンパクトを彼女に渡す。
そう、出来る限り誠実に、優しくスマートな態度で。
第一段階クリアを目指すべく、決意も新たにピエロの仮面を外して鞄に入れた。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます