9
「せーの!」
「「紫組、頑張れー!」」
女子たちの輪に入って、チームのみんなを応援する。
男子の騎馬戦は殴り合いかと思うほど激しくて、ちょっと怖い。
「莉央、大丈夫? ああいう激しいの苦手そうだもんね。向こうでちょっと休もうか」
「うん」
隣りにいた舞ちゃんに肩を抱かれ、木陰の方に移動する。
数人の男子たちが先客で涼んでいた。こちらに気付いた、凛ちゃんと目が合う。
「凛ーっ、莉央を連れてきたよー」
清楚系ギャルの舞ちゃんは、ちょっと女子に怖がられている凛ちゃんが相手でも臆せずに話しかける。
いろんな男子と仲が良い。
「どうした? 疲れた?」
心配そうに声を掛けてくれる、凛ちゃん。
みんながスペースを開けてくれたので隣に座る。
未開封のスポーツ飲料を手渡される。
「ちょっと! 舞にはないのー?」
「あっちに自動販売機がある」
「そういうことじゃないんだよー。ここまであからさまだと、ウケる」
ニヤニヤと楽しそうな舞ちゃん。凛ちゃんのほうはうんざりしたような顔をしていた。
舞ちゃんのことが苦手ってことはないと思うけど、対応がちょっと冷たい。こういうところが女子に怖がられるんだよ?
凛ちゃんは私以外の女子とあまり関わらないから、女子と話すのが苦手なのかもしれない。
優しいのに誤解されているのはもったいないよ。
男子たちの話題に耳を傾ける。
「凛太郎が騎馬戦に出れば良かったのに」
「いや、コイツに挑むとか猛者だろ。敵前逃亡されて、ハチマキ取れないって」
「その絵が見たい」
ギャハハっと笑いが起きる。
「凛ちゃんって騎馬戦に強いんだね?」
「そんなことはない」
みんなの話だと強いかと思ったのに否定された。
団扇で扇いでくれるから、涼しい。
「莉央の髪って凛がやったんでしょう? みんなに可愛いって言われてたよー。あの子誰?とか他のクラスの男子に聞かれたんだけどっ」
「……へー」
話題を降ってくれているのに、反応が無愛想すぎる。
そんな態度でも舞ちゃんは不思議と楽しそうで、強い。私が凛ちゃんにそんなことされたら凹んじゃうよ……。
「あっ、騎馬戦は終わったみたいだね。次は……障害物競走だってー」
プログラム表を見せてくれたので覗き込む。
これで午前の競技は終わりみたい。
「障害物なら、凪くんが出場するって言ってたな」と思い出して呟く。
「青チームの王子?」
「うん、ちょっと見てくるね」
「舞も一緒に行くよー。莉央を一人にしたら怒られそうだし」
「?」
舞ちゃんが視線を向けた凛ちゃんはスマホを弄っていた。
みんなと話をしている時に珍しい。あまり見ない光景だ。
画面に集中しているみたいだったから、声は掛けずに離れる。
「こじらせてんなー」
「何が?」
「んー? 莉央って可愛いね」
「?」
突然褒められたけど、意味がわからない。
唇を尖らせていたら「そのまんまでいてね」とか更に謎が増えるだけだった。
障害物競走は、腕立て伏せ、ぐるぐるバット、平均台、あめ玉探しの順でゴールを目指すらしい。
私だったら最初の腕立て伏せに詰んでるやつ……。
ぐるぐるバットでふらふらになった男子が平均台を上手く渡れずに苦戦したり、顔中かわ粉まみれになったあめ玉探しに笑いが起こる。
「ほらほら〜、紫チーム頑張れよー!」
舞ちゃんがよく通る声で応援する。
大きな声を出すのって恥ずかしいってなるから、堂々としたその姿は憧れる。
「次のレースが王子じゃない? 準備してるよ」
指先の向こうに凪くんがいた。
手首を回し、準備運動をしているみたいだ。
「莉央も応援したら?」
「えっ」
「そのために来たんでしょう。大丈夫だって、チーム関係なく、女子はみんな王子のことを応援してるから」
確かに「凪くーん」「頑張ってー」という声がそこら中から上がっている。学年も関係ないみたい。改めて彼の人気を目の当たりする。
清潔感のある短い髪、すっと伸びた背筋、そこだけまるで違う世界のような空気を纏っている。
みんなの目が奪われるのも必然的といえる。
「……ばれっ」
口を開いてみるけど、やっぱり大きな声は恥ずかしい。
ぱくぱくと動かしているだけじゃ、応援は届かない。
意気地なしな自分にしょんぼりと項垂れていたら、キョロキョロと首を動かしていた凪くんと、ばっちりと目が合った。
――みつけた
そう口が動いた気がする。
「……な、凪くんっ!頑張れー!」
この歓声の中では届かないと思う。
でも、にこっと笑ってくれた。うわーっ!
「なにあれ?」と舞ちゃんが驚いたように呟いている。
私もびっくりだよー!
『よーい、スタート!』
ホイッスルが響き渡る。
腕立て伏せのエリアに一斉に駆け込む男子たち。でも、凪くんだけ猛スピードで回数を重ねていく。他の男子が指定回数の半分も終わっていない内に、ぐるぐるバットへと掛けていく。
「すごっ」という声がどこかから聞こえてくる。
全くフラフラにならずに、凪くんは平均台を軽やかに渡っていく。
「かっこいい」
「さすが王子……!」
他の男子たちはモブと化していた。女子たちは凪くんのことしか口にしない。
凪くんくらいになると、あめ玉探しも瞬時に見つかるようで、ちょっとだけ鼻先に粉が付くだけだった。
「やぁ〜ん、可愛い」
「写真!いや、動画! 誰か撮ってないの!?」
その気持ちわかる。
余裕でゴールをした凪くんの笑顔が眩しすぎる。
見ているこちらまで高揚感でいっぱいだ。
「ふ〜ん、やるじゃん」と感心しているけど、舞ちゃんは微妙と言いたげな表情をしていた。なんでだろう?
「王子のレース終わったし、凛のところに帰ろうか」
「うん?」
チラッと凪くんのほうに目を向けると、ピースが返ってきた。テンション上がってる凪くん、かわいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます