ReBlood.N
毎日がメスガキに敗北生活
断ち切れた鎖
「一歩を踏み出せない者に道は永遠に現れない」
どこの誰が言い出したのかも分からないが
世の中には似たような言葉が溢れている。
人は皆、口では不満を漏らしながら
いつかやる…やればできる…と
自分をごまかし続けている。
結局はその一歩を踏み出す勇気がないまま
日常を過ごし何も変わらない。
行動しない者に、道など現れない。
僕も…そのひとりだった。
人生に
この世界の仕組みに
疑問ばかり抱いていながら
何も変えようとはしなかった
ただ言われるままに生きてきた。
何のために生まれ
何のために働き
何のために消えていくのか。
答えのない問いを抱えたまま
惰性で日々を過ごしていた。
それでも心の奥底では
ほんのわずかに願ったことがある。
もし、この世界を変えられるほどの力が
手に入るのなら…。
そんな妄想じみた願いのようなものが
ある日本当に僕の前に現れた
導かれるように足を踏み入れた
あの建物の中で。
その日を境に
僕の人生は静かに
しかし確実に、"一歩"を踏み出すことになる。
~~~~~~~~~~
かつてこの世は機械によって支配され
人々は飢えを知らず不自由なく暮らしていた。
だがその繁栄は
ある日突然…
天変地異によって終わりを告げたという。
発展を誇った国々はすべて無へと帰し
彼らにとっての日常は姿を消した
──この星の文明は崩壊し、人類は滅亡した。
…はずだった
わずかに生き残った者たちがいた。
彼らはこの大地に再び火を灯し
やがて新たな文明を築き上げた。
その中で"異形"と呼ばれる怪物が現れ
人々の生活を脅かすようになった。
異形に抗うため
人々は剣を手にし
いつの頃からか
魔法と呼ばれる力を扱う者たちも現れ始めた。
新時代の開始から三百九十九年…
この星は再び、歪んだ繁栄の渦にある。
王国は力を独占
民には重税と兵役、そして奴隷制度を課し
金と食料、そして命を搾り取っていた。
文明は一度滅んだ
それでもなお権力だけは人を歪め続けていた…
~~~~~~~~~~
僕の名はシル・レヴンスティール
十九歳
学校を卒業してからの毎日は
兵士の監視下で
淡々とこなすだけの意味もない労働。
そんな生活の中で
ただ一つだけ心を落ち着かせてくれるものがある
休日に足を運ぶ「遺物」の展示だ。
遺物は面白い
文明崩壊前のものや新時代の創世期…
僕が生きていなかった時代に作られた物なのに
手に触れると
その時代の空気が胸の奥に流れ込んでくる。
朽ちた剣
風化した衣服
用途の分からない古びた道具…
(この錆びた剣一本にも
誰かの物語があるのだろう…)
そんな想像を重ねながら
僕は今日も遺物を眺め歩いていた。
「…だいぶ冷えてきたな」
吐いた息がほんのわずかに白くなる
暑い季節が終わり、秋が近づく。
いつもならこのまま家に帰るはずだった
だがその日は…
理由もなく足が村の外れへ向いていた。
気付けば、その異様な雰囲気に惹かれ
無意識に…ぽつんと建った古ぼけた建物の前で
足が止まっていた。
…僕は、何をしているんだ?
不思議だった
その建物から漂う
どこか懐かしくも不気味な匂いに
ただ立ち尽くしていた。
すると背後から声がした
「おい、貴様。そこで何をしている」
慌てて振り返ると
黒と緑の髪を揺らした鎧姿の女騎士と
もう一人…
右目を前髪で隠した
女騎士は獣髪の女の腰に手を回し
護衛…というよりは
恋人のように見える近さで寄り添っている。
この世界で鎧を身につける者は限られている
王族の護衛か、異形を狩る兵士くらいだ。
(そんな者が、なんでこんな田舎に?
まさか、獣髪の女性は王族…?)
焦りから思わず声が裏返った。
「お許しください…!」
「ここは君が来てもいい場所じゃないよ」
獣髪の女が静かに言った。
その声色には、叱責とどこか優しさが滲んでいた
そして次の瞬間…
彼女は僕の目をじっと覗き込み、微笑んだ。
「君は…いい目をしているね」
鼓動が跳ね上がった
顔が恥ずかしさで赤くなる
そして同時に
平凡で何一つ特別なものなんて持っていない僕に
なぜそんなことを言うのか理解できなかった。
獣髪の女は迷いなく言った
「…君の心には、眠っている力があるね
少し話そう…中においで」
女騎士が声を荒らげる
「お、おい!勝手に話を進めるな!
そいつはただの村人だぞ、レイヴン!」
だが…止める間もなく僕の足は
彼女の言葉に導かれるように
建物の中へ歩き出していた。
~~~~~~~~~~
部屋の中では焚き火が音を立てていて
外の冷たさが嘘のように暖かかった。
獣のような髪をした女…レイヴンは
ソファに腰を沈めながら言った。
「この国は…残酷だよね」
その声は
不思議と僕の胸に
直接入り込んでくるようだった。
「何のために働いているのかも分からず
ただ国の命令に従い続ける…
それでも人々は国を信じて
いつか報われると思い込み…命を奪われ続ける」
僕も…同じような事を思っていた
まるで僕の頭の中を覗いたみたいに
ずっと抱えていた国への不満を
そのまま言葉にされた。
「私はね、勘が冴えているんだ」
「君は…ほんの少し押すだけで
この世界に牙を剥く
私の感覚が、そう告げている」
背筋が震えた
「あなたは…何者なんだ?」
問いかけると、彼女はゆっくりと微笑んだ。
「私の名前はレイヴン。
レイヴン・プリムローズ…
隣に立っていた女騎士が血相を変えた
「お、おいレイヴン!? なぜそのことを…!」
「…まぁ、落ち着きなよ」
レイヴンは軽く手を振りなだめる。
僕は存在するはずのない神話のような存在を
何故かすんなりと受け入れていた。
「あんまり驚かないんだね?」
レイヴンが首をかしげる。
「驚いてるよ、レイヴン…
ただ…不思議と
貴女の言葉は嘘だとは思わない」
理由なんてない
けれど彼女の言葉は妙に現実的だった。
「…単刀直入に言うね
君に
継承してほしい」
あまりにも突然で頭が真っ白になった。
な…
「何を言っているんだレイヴン!」
女騎士が勢いよく立ち上がり迫る。
僕が…
レイヴンは淡々と続ける。
不老不死
自己治癒能力の覚醒
身体能力の上昇
魔法の習得
五感の強化
時間認識の強化…
「ただし、体に適性がないと一部は発現しない
あと日光に弱いとか、そういうのは無い
悪いところは…少し鉄分が必要になる程度かな」
あまりに現実離れしているのに…
彼女の声は落ち着いていて疑いはなかった。
「国に反逆するなら…この力はうってつけだよ」
レイヴンは笑う。
僕は息を飲む
「デメリットは少ないというか…ない…?」
「死ねぬまま
この世界の行く末をすべて見届ける
…それが一番の"業"だ」
息が詰まった。
死ねない、終われない
それは力以上に…呪いのようだった。
だが
普通なら不可能なことでも…できる
…"何かを変えられる力"でもあった。
気づけば僕は
この世界の命運を握ろうとしていた。
「なんで…僕なんだ?」
ようやく絞り出した問いに
レイヴンは少し笑い、視線を逸らす。
「…これも勘、かな」
『この世界ために君の力が必要なんだよ』
心の奥で、誰かの言葉が頭を巡った
もし僕の力で
この世界を変えることができるなら…
救われる命があるなら…
数分考える
一生死ねなくなる…重い選択だというのに
安易だったかも知れない。
「…やります」
自分でも情けないくらい小さな声だったが
覚悟だけは確かにあった。
その声にレイヴンは笑う
「頼りないなぁ…でも嫌いじゃないよ」
彼女の手がゆっくりと僕の顔に伸びてくる
その手は僕の左目を覆った。
「二人で勝手に進めるな…!」
女騎士が呆れながらも
どこか諦めたようにため息をつく。
「見ず知らずの男だが…
レイヴンが選んだ者なら何かあるのだろう
無関係ではいられなくなる」
名乗るように言う
「私はロジェロ・スターチス。…貴様の名は?」
「僕は…シル・リヴンスティール」
「よろしく、シル」
レイヴンが囁いた瞬間
手が僕の左目を覆った。
~~~~~~~~~~
闇が落ちる。
気づけば…真っ暗な道を歩いていた
その先で、レイヴンが立っていた。
微笑み、僕に向かって歩き寄り
抱きつこうとするように手を伸ばし…
消えた。
目を覚ますと、自宅のベッドの上だった
鏡の前に立つと
左目の角膜が紅く光っていた。
再びあの場所へ戻ると
家は崩れ、血の臭いが満ちていた。
床には血に塗れた不老不死であったはずの
レイヴンの亡骸と
倒れるロジェロの姿があった。
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