第4話 教室が支配されたわけ
二度目の一条の新入生代表挨拶を聞き、入学式が終わった。
覚醒式を無事に終えた今度こそ、過去とは違うクラスになると期待していたが、儚い夢だった。
一年Aクラス。前回と同じく一条と貝塚がいるクラスで、まだ担任が来ていない今、早速始めたようだ。
パンパン、と手を叩き口を開く貝塚。
「はーい、みんなちゅーもーくぅ。文句はぁ、受け付けてませぇーん」
教室の前方で机に上がり、ニヤニヤと見慣れた嫌な笑顔を振りまいている。
何事かと、教室内は言葉を失ったかのように静まり返った。
「一条ぉ、準備できたぞぉ」
俺は知っている。このあと一条が最初にやったことを。
「中々素直なクラスメイトで助かるな、これなら無駄な体力は使わなくて済みそうだ」
鼻で笑い、完全に見下した目を俺たちに向ける一条。
「いいかぁ、最後まで聞くんだぞぉ」
「俺は一条だ。知っていると思うが、日本のトップシェアを誇る、冒険者の装備や道具を売る一条商事は俺の祖父が会長を勤めている」
それを聞き、大雑把だが状況を把握し始め、顔をしかめる者たちと、『それがどうしたんだ?』と、隣の者とコソコソ話し始める者の二通りに別れた。
トップシェアと簡単にいうが、ほぼ独占企業と言っていい。
政府発行の冒険者用品の販売、買い取り許可を持つ企業が三社しかないからだ。
「わかるか? 俺には逆らうなってことだ」
「でぇ、俺がぁ、マテリアル貝塚の御曹司だぁ。逆らうんじゃねえぞぉ」
この子供じみたマウントで、このAクラスの上下関係が決定した瞬間だ。
マテリアル貝塚も、政府から販売冒険者が手に入れた素材の買い取りを主に販売も手掛けている、三社のうちの一つ。
その事もあって、冒険者を目指すため、この育成高校に入学したほとんどの者が世話にならざるをえない相手となる。
一条や貝塚の企業に逆らえば武器防具はもちろん、ダンジョンでの拾得物の販売も難しくなり、引退に追いやられた冒険者は多い。
逆らい廃業した下請けや、関連会社もある……。
「なんだ、拍子抜けだな貝塚、一人くらいは歯向かってくると思ったんだがよ」
「だなぁ、まあ逆らった時点でぇ、冒険者廃業だけどなぁー。ま、楽でいいんじゃん、次のクラス行こうぜぇ」
前回は、覚醒できなかった俺も連れていかれた。行く先々のクラスで、見せしめに殴るためだ。
だが、過去が変わったからか、二人がクラス出ていく背中を見送ることができた。
クラスに机や椅子が、床のリノリウムと擦れる音が溢れ、隣り合ったもの同士で会話が戻ってきた。
俺も音を立て椅子を引き、力が抜けたように座り込んだ。
肺にたまっていた空気を吐き出し、机の下で握り続けていた手を開くと、爪のあとがくっきりと残っていることに気づいた。
どれだけ緊張してたんだよ。
だが、入学初日の前半は乗りきった。
貝塚との接触はあったが、過去の出来事で一番避けたかった未覚醒の事態はクリアした。
だが、このあとも油断はできない。
担任からの連絡事項を聞いたあと、過去の俺は一条と貝塚に家を知られることになる。
過去の俺は、その時点で反撃どころか、足を引きずり、まともに歩くこともできず、言われるがまま家まで着いてこられた。
今回も、スキル付与術を覚醒したが、戦闘に役立つかどうかの検証すらできていない。
十年間で覚えた戦闘技術は覚えている。
付与術を覚醒した今、この時点で二人に抵抗すれば勝てる可能性だってある。
が、今はやり返すにも、やり返したあと起こる不具合についてまだなにも準備できていない。
今日、このあと家を知られないようにすることに集中しよう。
そうだ、家を知られたあとは、奴らの溜まり場と化し、勝手に家に上がられることも多々あった。
両親と鉢合わせした時は、泥棒と勘違いした両親が警察を呼び、逮捕沙汰寸前にまで進んだこともある。
あのあと、高額な示談金で表面上は和解したが、今思えばあの火事もそのあとすぐだった。
あの火事ですべてが燃え尽きた。両親が死に、家もなにもかもが。
そうだ……もしかしてアレか……。
俺の部屋に隠されていた貝塚の身体強化薬が焼失して弁償を迫られた……。
当時、学校で噂になっていた身体能力を一時的に上げる薬。
当然一時的な効果しかないが、飛躍的に伸びるものと知られていた。
だが、その身体強化薬には強い依存性があり、麻薬認定されて問題になったのもその頃だ。
ニュースになり、学校にも麻薬取締官が手を伸ばし、探していたのはおそらく、売りさばいていた貝塚だろう。
そして火元が俺の部屋の真下、たばこも吸わず、火の気の無い両親の部屋だった。
まさか……。いや、可能性は高いどころか貝塚なら証拠隠滅のため、躊躇無くやるだろう。
火事のあとの貝塚の顔が浮かんだ。
珍しく、『大丈夫か?』なんて言ってたが、その顔はどうだった……。
両親の死で、滲んだ景色を映し出していたが貝塚は……笑っていた。
そうだ……アイツ、笑っていたじゃないか!
ガタン、と椅子と机が大きな音を立てた。
焼け焦げた煙の匂いが、両親の声が……。
押さえようのない怒りがこみ上げてくる。
今すぐ奴らを追いかけたい衝動に駆られる。
今すぐ奴らを殺しに行かないと!
ガタン! と二度目の音を立て、立ち上がったが、クラスメイトの目に気がついた。
……駄目だ! それじゃ奴らと同類に成り下がるだろ!
……落ち着け、奴らに家を知られるのは絶対阻止しないと駄目なのは明白だ。
学校から近く、一軒家だったことが奴らが入り浸る原因の一つでもあるだろう。
担任の連絡事項を聞き流しながら、どう奴らからの目を避けるか、思考を重ねた。
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