【無能冒険者のやり直し】スキル無しの役立たずと呼ばれ殺された俺、過去に回帰して願うこと~未来の知識で死亡フラグを潰していたら、想定外に強くなりました~
いな@
第1話 死と目覚め
「
ダンジョンの小部屋、その部屋の外から急かす声が背中に突き刺さる。
それだけならまだマシだ、手持ちぶさたに石まで投げつけてくる始末だ。
「痛っ、待て、乱暴に扱うと本当に危ないんだ」
投げられた石だと思ったものは、頬に当たり、床を転がっていく。
今の衝撃で、スキルオーブが浮き上がってしまったが、幸い起動はしないようだ。
「まさかスキルオーブを使おうとか考えてないだろうな!」
「そんなこと考えてもないから止めろ、手元が狂う」
罠の起動スイッチはスキルオーブの下にある。
物理スイッチが起動しないギリギリまで持ち上げ、百均のレジンを流し込んでいるところだ。
それに、スキルオーブは喉から手が出るほど欲しい。
当然使用してスキルを覚えたい。
「止めろだぁ? 能無しが! 口答えしてんじゃねえ! ぶち殺すぞ!」
「い、痛……」
ポタリ、と作業着に血が滴り落ちた。
「一人でダンジョンに潜れねえ能無しが! 俺たちに偉そうな口を利くんじゃねえ!」
「おいおい、
「チッ、
「す、まん、だが、本当に危険なんだ」
この罠解除は教本にも載っていない俺オリジナルな解除方法だが、裏方作業には変わりない。
いつだって評価されるのは、二人のように攻撃系のスキルを持ち、モンスターを倒せる者だけだ。
役にはたっているはずだが、二人から見れば無能扱いは変わらないのが悔しい。
が、何を言っても同じことだ。
怒りを買うだけになるのは目に見えているから余計なことはしないに限る。
レジンがしっかり奥まで浸透したところで、UVライトを当てスイッチが動かないよう固めるだけだ。
スキルオーブを手に入れた俺たちは、早々にダンジョンを出て、役場に査定を依頼するためやって来た。
鑑定の機械がある個室に三人で入り、結界が出たんだが……。
「収納ってマジかよ! これで冒険者なんて辞められるぞ!」
「ヤベっ! マジヤベ! 数十億のスキルだぞ!」
喜ぶ二人を横目に、いつもは捨てる査定結果表を見る。本当に収納と書かれていた。
凄い。俺の物になるわけがないが、記念くらいにはなるだろう。
そう思い何気なくポケットに押し込んでおいた。
だが、査定結果に喜ぶ一条と貝塚だが、俺は身の危険を感じている。
ダンジョンの拾得物の買取金額は、パーティーメンバーの人数で均等割りが常識だ。
この二人のことだ、必ず何かしてくるだろう。
役場の中での暴力行為は厳しく取り締まられ安全だが、一歩外に出れば監視の目も弛む。
逃げるなら役場を出る寸前……何事もなければいいんだが……
嫌な予感は当たるものだ。
やはりと言うべきか、個室を出る前から二人の様子はおかしかった。
まるでダンジョンのモンスターを見るような、殺気のこもった視線を投げつけてきていたからだ。
知り合いと出会い、挨拶を交わしている隙に逃げ出せたのは幸運だろう。
「はぁ、はぁ、逃げきれた、か?」
査定結果を報告せずに役場を出た時点で、逃げる準備をしていた。
収納スキル、売れば最低でも一人数億を手にできる二人が、素直に分配金を渡すとは思っていない。
日常的に、一度渡された分配金の八割をあとから奪われている。
だが、今回は、分配金を受け取る前だ。しつこく追ってくることはなかった。
「はぁ、でもこれがあれば」
逃げ込んだダンジョンに身を潜め、カサリ、と手元にある査定結果表を広げる。
◆◆◆◆◆査定結果◆◆◆◆◆
◎スキルオーブ 【収納】
1、査定依頼パーティー名
・ファーストダイブ
2、パーティーメンバー
・一条
・貝塚
・千蔵
3、拾得ダンジョン――
これさえあれば、後日でも分配金を請求できる。
こんな紙切れだが、パーティー名にメンバー名が記載された公的記録。
そう思っていた。
後頭部に衝撃を受け、奴らの声が聞こえるまでは。
「千蔵ぁ、見え見えだったぜぇ、ダンジョンに逃げ込むところからなぁ。まぁ、連れ込む手間が省けたから褒めてやるよぉ」
「ったく、無駄に走らせやがって、スキル無しのレベル3が逃げきれるわけねえだろ」
「あ、う……」
一条の手にはバールが握られている。
「コイツはもらってくぞ、まあ、それだけ血が出てんなら、すぐに死ぬだろうから必要ねえだろ」
手の上から、査定結果が奪われるのを感じた。
「あぁーあ、千蔵のせいで一条がまた人を殺しちまったよぉ」
……そうか、俺、ここで死ぬのか。
無能のレッテルを貼られて十年。
頑張ってきたのにな……。
あと少しでスキルも買えたのに。
二人の声が遠くに聞こえる。
悔しい。なぜ俺が。
寒い……手の中の地面が暖かく感じてきた。
スキルオーブと似た感触と、暖かさが伝わってくる。
ああ、冒険者になる前に……。
スキルオーブを奪われる前に戻り、“マスター”できていたら……。
ジリリ、と目覚ましがけたたましく鳴り始めた。
ヘッドボードに手を伸ばすが、時計は無く、ざらざらとした感触が指先に伝わってきた。
手探りで探すも見つかる気配はない。
はぁ、起きるか。
「……は?」
見覚えがある天井だ。十年以上見続けた天井だから間違いようもない。
「なんで……」
布団を蹴飛ばし体を起こし、見慣れた部屋を見渡す。
壁には十年前のカレンダーが貼られている。
「嘘だろ……ス、スマホ!」
畳の上にあったスマホの電源に触ると、愛猫の待受画面と、日時、それに今日の予定メモが表示された。
「は、はは……なんで十年も前だよ、それも入学式当日とか、死にかけてるのに夢でも見てるのか俺」
あの頃に戻りたいとは思ったが、どうなってる。
この家も火事でなくなったはずだ。両親と共に。
「待て、そうすると父さんと母さんも生きてるのか……」
確かめないと。
畳の上に敷かれた布団の上で立ち上がる。
「痛っ、なんだ、なにか踏んだぞって、夢じゃないのかこれ!」
足の下には透明な石が落ちていた。まるでスキルオーブのような。
「夢じゃないとして……まさかな」
絶対違うと思いながらも石を拾い上げた。
大きさも感触もあの時触れたスキルオーブに似てる気がする。
まさかなと思いつつも、言葉が勝手に出ていた。
「マスター……嘘だろ!」
手の中の石が沈み込み、消えてなくなったと同時に頭に声が響いた。
【ユニークスキル 回帰を習得しました】
「俺がスキルを覚えた? いや、今はそれどころじゃない! 夢じゃなければいるはずだ!」
学校に入学以来十年も目標にしてきたことだから、嬉しくないわけない。
だが今は両親の生存を確認する方が先だ。
引戸を乱暴に開け、軋む階段をかけ下りる。
魚の焼ける香ばしい匂いが漏れる引戸を開けると、不思議そうな顔の母さんと、新聞から顔を上げた父さんがいた。
帰ってきたんだ。
「
「はるくん、嫌な夢でも見たの?」
涙が出ていたようだ。
記憶の中の父さんと母さんだ。
十年近く聞いてなかった声だ。
生きてる。
二度と見ることも聞くこともできないと諦めていたことなのに。
もう、失いたくない。
どうやって過去に戻ったのかわからないが、このチャンスを逃す手はない。
お玉を片手に母さんが頭を撫でてくれた。
新聞を持った手で父さんが食卓へ促してくれた。
二人を失ってからの十年が、走馬灯のように現れては消える。
家族がいることは、こんなに幸せだったんだ。
さらに涙が溢れ、トレーナーの胸元を濡らす。
……そうだった。この幸せを壊した奴らがいたんだ。
なぜ、どうやってなんて考える必要はない。
過去に戻ったって事実があればいい。
それに同じことの繰り返しなんて死んでも嫌だ。
このあと起こることは知っている。
父さん、母さん。俺、頑張るよ。
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