刑務所の自由な存在。

橘 織葉

捕えられた殺人犯。

とある街に、とても有名な大学生が居た。

大学生が有名になったのは、彼の家が有名だったからである。

かなりの富を持っていて、家も一軒家というより屋敷。

しかし、有名になったのはその理由よりも、もう一つの「とある理由」の方が大きいだろう。

「とある理由」とは、自由が存在しないことだ。

父よ言うことは絶対で、従っていれば間違いはなく……

否、間違いがあっても金で揉み消せる。と言うのが正しいだろうか。

そんな、自由のない人生を送ってきた大学生は現在、牢屋に入れられていた。

「こうして境遇を見ていると、同情もするものだな」

俺は刑事で、この事件……

「〇〇家父親殺人事件」の捜査をして、ある人物を逮捕した。

その人物とは、先ほどまでに語った大学生である。

自由を求めて父親を殺害し、警察に捕えられたわけだ。

今回彼の境遇をまとめたのにはわけがある。

この後、彼の死刑実行前に彼と話す場があるのだ。

そこでは、被刑者に未練をできるだけ残さないように会話をして解決をする。

まあ、解決できない場合もあるのだが。

「刑事、時間です」

「ああ、わかった」

警官に連れられ、取り調べ室に入ると、中に一人の人間が見える。

今回の被刑者の大学生だ。

「初めまして……ではないな。

逮捕ぶりだな」

「…………」

「何かやりたいことはあるか?」

「…………」

「なにかやり残したことはあるか?」

「……一つだけなら」

そこでやっと彼は口を開く。

「自由になれていない。人生で、一度も」

たった一つの願い。父親を殺してでも手に入れようと願ったもの。

しかし……

「……すまん。その願いは叶えてやれそうにない。酒とかなら用意できるが……」

「いえ、大丈夫です。

あなたじゃなくても、ここの人が自由にしてくれますから」

この会話を最後に、彼の命は途切れた。

刑が執行されたのだ。

あまりにもあっけなく、一度の自由も許されなかった命が。

しかし、今この刑務所では別の問題が起こっていた。

刑事も身をもって体験済みである。

何か原因を探らなければならない。

その問題とは、牢屋の鍵が突然開いていたり、警官の身につけているものが無くなったりすることだ。

ポルターガイストじみたことも起こっている。

まるで、遊んでいるかのように。

……刑事は薄々、気づいていた。

この現象も、大学生かれのイタズラではないのかと。

亡霊になって初めて許された、「自由」。

刑務所に入って、結局自由は無くなったと思っていた。

しかし本当は、彼は刑務所に入ってやっと、自由になれたのかもしれない。

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刑務所の自由な存在。 橘 織葉 @To1123

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