協力の完全犯罪~岡部警部シリーズ~
柿崎零華
第1話~事件編~
今、目の前には清々しい景色が広がっている。
学校の屋上は、いつ来ても私にとっては癒しの空間であるのだ。
小説家を目指しており、高校在籍中までにはノウハウを取得しておきたいと考えている私〈三橋光葉〉は妄想が広がるこの景色を、とても気に入っている。
青空の下や住宅街を見ると、妄想だけでも様々な景色が広がってくる。
それが私にとっては才能かもしれないが、一方デメリットとしては妄想のせいで精神的に保てない部分が多くあるのだ。
人がどのように思っているのだろうか。
私の評価は本当のところかなり低いのではないのだろうか。
それを考えるだけでも、私はひどく落ち込んでしまう。
この才能を持って本当は悪かったのではないか。
青空の下でも心は曇り空に染まっている。
小さくため息を吐くと、後ろから声をかけてきた。
振り返ると、そこには同級生で親友の〈浜田さくら〉が笑顔で後ろに立っている。
「何やってるの?」
「何って景色見ているだけよ」
「たまには頭も休ませたら?」
「それが出来たら、こんなことしてないわよ」
「そうねぇ」
さくらは隣に立ってきた。
彼女は私の一番の友人であり、よき理解者だ。
小説家の夢に対してもかなり好意的に思ってくれており、応援してくれる一人でもあるのだ。
私は彼女と共に時間を過ごすだけでも、かなり心が浄化されるのだ。
「先生、辞めるって」
「え?」
「あの教頭が原因だと私は思っている」
「まさか現実になるとはね」
「どうする?」
「え?」
「だから、あの教頭よ」
「あぁ」
私とさくらがお世話になっている女性教師が一人だけいる。
名前は〈小峰〉。
教師歴三年の若手教師ではあるのだが、生徒思いのところがあり、悩んでいたり、喧嘩したりした生徒に対してもきちんと前と前で向き合ってくれており、私とさくらを結んでくれたのも小峰のおかげだ。
そんな小峰は最近結婚をしたのだが、それを原因に教頭である〈阿佐ヶ谷〉からパワハラやモラハラを受けており、とても先生自身悩んでいた。
阿佐ヶ谷は長年校長経験をしていたのだが、数年前に不祥事を起こしたことをきっかけに教頭職に降格となったと聞いた。
何があったのかは知らないが、このような性格を知った以上は、恐らく穏やかな人とはかけ離れた人間だろう。
それもあってか、阿佐ヶ谷はあまり笑顔を見せない。
私たちに対しても、微笑んで喋ったことは一度もないほどだ。
それなどを肌身で感じていたため、今回の阿佐ヶ谷の行動には怒りの気持ちもあったのだが、遂に小峰が辞めることが現実なのかと思い、とても悲しい思いを感じた。
一人の大切な教師がいなくなった。
私にとってはそれがどれだけの寂しさを生むのか、あいつには分からないだろう。
喪失感では現わせられないほど、心は更に曇りを見せてきた。
そのため、さくらとはとある計画を立てていた。
ここまで小峰を追い詰めてきた阿佐ヶ谷を許すわけにはいかない。
小峰が辞めたと知ったその当日にこの計画を遂行するつもりだ。
私は犯罪者になる覚悟は決まっている。
犯罪者となったとしても、警察にバレなければいいのだ。
完全犯罪という言葉がある以上、これを遂行する。
私はさくらの方を見てから
「いいの?」
「私はもちろん、全てを失う覚悟は決まっているわ。なぜなら、何も未練はないから」
私はさくらの方をじっと見つめた。
さくらは何も趣味もなく、家族仲が良好であるわけでもない。
いつも私の小説を応援してくれるだけであった。
そんな彼女に「未練もない」と言わせてしまったことが、なんだか申し訳ないなと思いながらも、こう言わせてしまった限りは、必ずこの計画を遂行しなければ意味がない。
小説家を目指している私ならではの計画を立てたのだ。
私は小さく頷いてから
「分かった。とりあえず教頭を呼び出そう」
「夜で良いのね?」
「うん。一応計画では夜に呼び出して、あいつの息の根を止める」
「分かったわ」
「それじゃあ、計画の内容を全部言うわ」
そこから私とさくらは計画の全てをおさらいし、夜を迎えるのであった。
夜が深まり、時間は午後八時。
学校がまるでホラー映画に出てきそうな不気味な雰囲気を出しながらも、静かに立っているだけだ。
私とさくらは制服の上に黒いジャンバーを着たまま、誰もいない三階音楽室の角に座っている。
手には彼を殺害するためのスパナを持っている。
近くだと疑われるため、あえて遠くのショッピングセンターから購入をした。
足が付かないために、帽子にジーパンで付け髭をした男性に扮した姿で行っているため、中々警察を混乱させるだろう。
それは置いていて、普段ならこの時間に阿佐ヶ谷は音楽室に来ては、グランドピアノの前に座り、得意のショパンを弾く謎の恒例儀式がある。
小峰からこっそりと聞いた情報なのだが、この儀式の内容は誰も知らないため、警察に知られたら厄介である。
だが、私は失敗を恐れない。
必ずや完全犯罪を実現し、小峰に再び戻ってもらえるようにこちらから頼み込むのだ。
さくらが小声で私の方を向きながらも
「ねぇ、ちょっといい?」
「どうしたの?」
「本当に来るの?」
「来るに決まってるでしょ。これは小峰先生情報なんだから」
「それで、来たら私が向かえばいいのね」
「そう。あなたが先生に襲い掛かれば後はこっちで何とかしておくから」
「ならいいんだけど。これで全てを失うのか」
「全ては小峰先生の復讐よ。分かっているでしょ」
「分かっているわ。あなたがせっかく立ててくれた計画だからね」
「そう。これで警察も別の方向で解決してくれれば、またどこかに出かけよう」
「そうね。原宿に美味しいスイーツ店見つけたの」
「いいね。そこに行こう」
すると、コツコツと足音が聞こえてきた。
この学校には夜間警備員がいるため、その人の可能性だってある。
息を潜めながらもじっと待っていると、その音は音楽室の前で止まり、扉が開いた。
足音の正体は阿佐ヶ谷であり、グランドピアノの前に立ち、そっと鍵盤を触り始めている。
私はさくらの方を向きながら頷いた。
「あら、先生何してるんですか?」
阿佐ヶ谷は驚いた様子で振り返った。
その隙に私は阿佐ヶ谷の視線から外れるように、回り込んでから後ろに回ることに成功した。
「浜田さんかい?」
「もちろん」
「こんな時間に何してるんだ」
「ちょっと忘れ物をして」
「忘れ物って今何時だと思っているんだ」
私は後ろから持ってきたスパナで阿佐ヶ谷の頭を殴りつけた。
阿佐ヶ谷はそのまま倒れ込み、頭を手で押さえ始めた。
まだ死んでいないため、私は再び阿佐ヶ谷を殴りつけた。
もう一回ほど殴ると、阿佐ヶ谷は息絶えた。
さくらも近づいてきてから、阿佐ヶ谷の死体をじっと見つめてから
「私たち、犯罪者ね」
「まだ確定ではないわ。バレなければただの一般人よ」
「どう。これでミステリー書けそうでしょ」
「そうね。ノンフィクションなら作れるかも」
そう二人微笑み合った。
「それじゃあ、次の工程に移るわよ」
「了解」
そう言って私はさくらと共に重たくかなり腕力の要る死体を動かしながらも、窓を開けてから下の庭に落とした。
丁度真下の一階は応接室になっているため、誰にもばれない。
職員室はだいぶ離れているため、まさか教頭が殺害されて下に死体があることすら思わないだろう。
そのまま私とさくらは音楽室を出てから微笑みながらも、長く暗い廊下をまるで裏稼業の仕事をしている人間のように歩き始めるのであった。
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