聖なる夜をブラックサンタと

朱雪

第1話 クリスマス

 年に一度のクリスマス、何処を見ても彩鮮やかなイルミネーションが視界いっぱいに広がる。

 行き交う人々の中には、幸せそうに笑っている恋人たち、プレゼントを手に焦る大人たち、サンタとトナカイの仮装で宣伝をしているスタッフと様々だ。

 そんな中を一人で歩く俯いた男性。それが僕だ。

 今年はバイト先の先輩の親切で休みを取れた。

 本当なら今頃、専学で付き合っている彼女とレストランで……なんて学生の僕には無理があるから、僕の家で二人っきりのクリスマスパーティをする予定だった。ホンのついさっきまでは。

 彼女と歩いて向かっている途中、突然彼女のスマホが着信を知らせ、画面を見た途端に慌てた様子で出れば、相手は親から。なんでも、飛び込みのクリスマスケーキの注文が殺到してしまったからすぐに帰ってきて欲しいとのこと。実は僕の彼女、この町では有名なケーキ屋さんの長女で彼女自身パティシエを目指して……いや、今は本人が居ないからこの辺にしよう。

 とにかく僕はつい先ほどまではクリぼっちではなかった。

 でも今は第三者から見れば、立派なクリぼっち。

 自分で言ってて立派の意味が解んないけど、僕は慌てて家に帰る彼女を笑顔で見送りいそいそと寂しくアパートに帰る途中だ。

 

「先輩の厚意、無駄にしちまったかな」

 

 バイトで何かとお世話になっている先輩だから今回の休みもきっと僕の恋を応援したかったのだろう。恋話が好きな人だからな〜

 

「今度実習のお菓子、差し入れしよう」


 その時に聞かれるだろう話は、なるべく当たり障りのないように言えば大丈夫だ。

 

「もしもし、そこの幸薄い若者よ」

「ん?」


 呼び止められて思わず反応してしまったが、自分でそうだと認めてしまったのは軽くショックだった。

 改めて目の前には、黒いサンタクロースの格好をした…………女の子?

 

「あの……僕に何か用?」


 迷子とかだったら交番に連れて行くくらいはしよう。

そのくらいの優しさは残ってる。

 

「この聖夜に独りという事は、暇人疑惑がかかっている。さあ、その答えは?」


 失礼極まりない子だな!

 いやいや子ども相手に本気でツッコミを入れるなんて大人気ないぞ。

 

「……さ、さっきまでは彼女が居たよ」


 大人気ない! この返答も大人らしくない!

 心の中で自分にツッコミを入れる中、ビシッと音がしそうな程の勢いで、女の子は指差す。

 

「つまり、今は独り! すなわちクリぼっちだな!」

「…………もうそれでいいよ」


 気にしていないこの女の子のメンタルは鋼か鉄でできているのか?

 

「ならば私を手伝え! この期待の新人ブラックサンタクロース、シュバルツちゃんを!」

「………………え?」


 イエス・キ○○トよ、僕なにか貴方様を怒らせる事しましたか?

 せっかくの聖夜に子守りを言いつけるくらいの。

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