第4話叱られ保育士の冷たい共犯
翌日。
私は出勤し、職員室で自分の席に向かった。
すぐに主任の氷室みなみ先生と顔を合わせる。私は反射的に「おはようございます」と挨拶を試みた。
しかし、みなみ先生は私の存在を視界に入れることすら拒否するように、冷たい軽蔑の眼差しで私を完全に無視した。
みなみ先生は私の横を通り過ぎ、隣の席の桐原さくら先生のもとへ迷いなく歩み寄った。
「さくら先生、少しお時間を」
みなみ先生は静かに言った。
「昨日の良介先生の異常な振る舞いについて、早急に話し合う必要があります。職員室では難しいでしょう」
さくら先生は優しく微笑み、書類に目を落としたまま言った。
「ええ、もちろん。わかりました。では、今日の夕方、資料室へ来てください。三人で話しましょう」
その一言で、私の頭の中は一気に占拠された。
夜の資料室は、さくら先生と私の秘密の場所だった。
そこに、みなみ先生という純粋な嫌悪の象徴が招かれる。
それは、私の醜い本性が、今、さくら先生の支配下で公然と共有されるということだ。
胸の内には、恐怖と、抗いがたい期待が激しく入り混じっていた。
※※※
勤務後、職員室にはさくら先生、みなみ先生、そして私、良介の三人だけが残った。
資料室のドアが閉まる。遮断された静寂の中で、みなみ先生は冷たい視線を私に向けた。
さくら先生は、優しさの中に冷酷さを滲ませて言った。
「みなみ先生、良介さんにも複雑な事情があるんです。昨日の件も、良介先生の本性を知れば納得できるはずです」
さくら先生は、私をちらりと見て、そのすべてを静かに暴露した。
「彼は、年下の女性に叱られると、興奮してしまう体質なんです」
みなみ先生の顔から、一気に血の気が引いた。
彼女の冷静さが崩れ、純粋な嫌悪が顔に滲む。
「……ッ、気持ち悪い! この男は、私の心からの軽蔑を餌にしていたとでも言うんですか?!」
みなみ先生の怒りを露わにした罵倒が、私の心に突き刺さる。
私は、その強烈な刺激に耐えきれず、反射的に椅子から立ち上がり、深く頭を下げた。
「申し訳ありません! 申し訳ありませんでした! 私は最低です……」
私のその卑屈な謝罪と震える姿を見た瞬間、みなみ先生は凍り付いた。
彼女の顔に浮かんだのは、怒りや嫌悪ではなく、困惑と、そして隠しきれない優越感だった。
「……な、なに、その態度は。私の言葉に、そんなに卑屈になる必要はないでしょう」
自分の吐き捨てた言葉が、目の前の男を絶対的に屈服させている。
その事実に、みなみ先生は戸惑いながらも、自分がこの男に対して絶対的な権力を持っていることを感じた。
さくら先生は、その変化を見逃さなかった。
「そうよ。これが良介先生の本性です。昨日も私が叱らなかったから、彼は暴走したの。問題を起こさせないためには、私たちで叱ってあげないと」
みなみ先生は、冷たい瞳で私をじっと見つめた。
「……でも、叱るなんて、私はこの人に対して罵倒の言葉しか出てこない」
さくら先生は満足そうに微笑んだ。
「それがいいのよ。みなみ先生の冷たい罵倒こそが、彼にとって最高の『お薬』になるんです。協力してくださらない?」
みなみ先生は私から目を離さず、長く、深いため息をついた。
「……吐き気がしますが、わかりました。あなたの言う通り、効率的だ。良介先生」
彼女は私に聞かせるように、私自身に向かって結論を突きつけた。
「あなたのその気持ち悪い性癖は理解できません。ですが、子供たちの安全のため、私が責任を持って罵倒してあげましょう」
彼女は私への憎悪と嫌悪を込めた目で、冷徹に言い放った。
「私からの優しさなど、一切期待しないで。
あなたの異常な本性と無能さ、私の冷たい視線で骨の髄まで叩き込んで差し上げましょう。
この屈辱を、永遠に忘れさせません」
その瞬間、私は二人の支配者に完全に囚われたことを理解した。
さくら先生は優しさで、みなみ先生は純粋な嫌悪で。
私は二人の支配の構図の中で、深く頭を垂れるしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます