第9話 称号マラソン
ギルドハウスでの新スタイルの模索を終えた《クローバー》の面々は、次なる目的地へと向かっていた。目指すは低~中級ダンジョンの踏破、そして隠されたタンク系称号の収集だ。
「よーっし、今日は中級ダンジョン『岩窟王の城塞』だ!」
ルーナが意気揚々と先頭を歩く。街中ではメイン武器だけを装備し、セカンダリージョブが盾だということは秘密にしている。
(他のプレイヤーはセカンダリージョブの実装で、最前線の攻略に夢中なんだろうな)
メイは内心苦笑する。世間一般のトッププレイヤーたちがより強力な装備とスキルを求めて高難度ダンジョンを目指す中、彼女たちは自分たちのレベルには低すぎる中級ダンジョンを周回しているのだ。効率だけを考えれば、これほど非効率なことはない。
ダンジョンの入り口をくぐり、人気のない通路に入ったところで四人は立ち止まる。
「よし、じゃあ装備変更!」
ルーナの掛け声でそれぞれがアイテムウィンドウを開く。メイン武器を構えたまま追加された盾スロットに小盾を装備する。メイはサイズチェンジで小型化した盾を右甲に装着し、「盾ナックル」スタイルを完成させた。
「やっぱりこのスタイル、最高!」
アリスとフィリアも、それぞれの杖と小盾の組み合わせに満足げだ。
ダンジョン内は、もはや彼女たちにとって遊び場だった。
「アリス、サイキックシールド!」
「フィリア、ライトシールド!」
アリスが念動力で盾を浮遊させ、フィリアも光の盾を召喚する。敵の攻撃が飛んでくるが、浮遊盾たちがそれをオートで弾き返す。
「わぁ、すごい!ノーダメージです!」
(どうやら、複合スキルも「盾スキル」扱いらしいわね。称号の条件を満たせている)
メイは確信する。戦闘中、システムメッセージでスキル名が表示されるが、それらは確かに「盾スキル」のカテゴリに属していた。
「メイちゃん、盾ナックルで敵の武器狙って!」
「了解」
メイは「盾ナックル」で敵の武器を的確に破壊し、無力化していく。
「いっくぜー!はぁっ!」
ルーナが戦斧を振り回し、無力化された敵を一掃する。その動きは攻撃と防御を両立させた、文字通りの攻防一体スタイルだ。
「この斧と盾の組み合わせ、慣れてきたら最強じゃないか!もう『ヘヴィウォリアー』なんていらないぜ!」
「でも、盾を斧にできないのが残念だよね。シールドアックスとかあればいいのに」
アリスの言葉にルーナの目が輝く。
「シールドアックス!それだ!斧部分が盾でできてて、武器破壊耐性UPとか、斧としても盾としても使えるやつ!」
だが、そんなロマン武器はこの世界には存在しない。
「存在しないなら作るしかないな!」
ルーナはすぐにアイテムボックスから丈夫な紐を取り出し、小盾を戦斧の斧部分にくくりつけ始める。器用貧乏なルーナならではの即興細工だ。
「うわ、めっちゃ重い!」
当然ながら重量は激増する。
「でも筋力にポイントめっちゃ振ってるし、耐久力は称号で補えてるから問題ない!いける!」
力こそパワー。ステータスでゴリ押すルーナの新スタイルが爆誕した瞬間だった。
「『堅牢なる挑戦者』、ゲット!」
「『不屈の守護者』、レベルアップ!」
ダンジョンをクリアする度に次々と手に入る称号と効果の累積。クリアするまではどんな称号が得られるか分からない。だからこそ、一つ得る度に四人は大騒ぎだ。
[HPが500上昇しました!]
[防御力が300上昇しました!]
「うわぁ、私もうHP二万超えたんだけど!」
「私も防御力が普通のタンク職の倍くらいあるよ!」
全員のステータスウィンドウには通常ではあり得ない数値が並んでいた。特に防御力が紙だったウィザードとプリーストの二人は、その硬さに驚きを隠せない。
そしてメイ。モンクという防御を捨てたジョブのはずが、今やHPも防御力も普通のトッププレイヤーを遥かに凌駕していた。回避前提なのに超硬いという、文字通りのチート級性能だ。
(この硬さがあれば多少の被弾は怖くない。よりアグレッシブに立ち回れる)
彼女のプレイスタイルは、この称号の累積によってさらなる進化を遂げようとしていた。
「あれ?なんか広場が騒がしいよ?」
ダンジョンから戻り、アストラル・シティの広場を通りかかるといつも以上の喧騒が聞こえてきた。巨大クリスタルビジョンには見慣れない文字が表示されている。
[ギルド対抗戦(GVG)開催決定!]
「GVG!?」
「お試しで出てみる?」
アリスのその一言が四人の新たな冒険へのスイッチを入れた。この最強の「壁」パーティーが、世界の舞台で暴れ回る日がついにやってきたのだ。
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