セカンダリージョブはシールドで!

友野紅子

第一章 セカンダリージョブ実装と愉快な選択

第1話 喧騒と期待の街

近況ノートで表紙イメージを公開しています。

https://kakuyomu.jp/users/tomonokouko/news/822139840519995621


***


「おい、マジかよ!ついに来たぜ、セカンダリージョブ実装!」

「公式サイト見た?なんかメインジョブと同じの選ぶと『進化』するらしいぜ!」

「うっわー、俺のウィザードがアークウィザードになっちまうのか!ヤベー!」

 街は、まるで祭りの前夜のように騒がしかった。

 ここはハイ・ファンタジーVRMMORPG《セカンドワールド・オンライン》。サービス開始から半年が経過し、トッププレイヤーたちが新たな高みを目指してしのぎを削っていた、浮遊大陸群の中心都市アストラル・シティの中心広場だ。

 広場に設置された巨大なクリスタルビジョンには、「本日18:00より、セカンダリージョブシステムを実装します」という文字が、どでかく表示されている。その下には、ガーディアン、パラディン、ヘヴィウォリアーといった、進化後のジョブ名がずらりと並んでいた。

 行き交うプレイヤーたちは皆、浮足立っている。半年――このゲームの「死のペナルティ」であるレベルダウンの重さを考えれば、誰もが慎重にレベルを上げ、築き上げてきた自分のキャラクターに愛着があった。だからこそ、この新たなシステムは世界に激震をもたらしたのだ。

「進化か、複合か……迷うよな」

「王道は進化だろ。単純に強くなるんだから」

 そんな声があちこちから聞こえてくる。

 モンクの「メイ」こと さつき は、そんな喧騒の中心にいながら、一人冷静にビジョンを見上げていた。黒髪のお団子ツインテールが特徴的な、クールな美少女アバターだ。彼女の視線は、表示された進化ジョブのリストの中央付近にあった「モンク → モンクマスター」の文字に留まっている。

(モンクマスター……単純なステータスアップとスキル強化だよね、私のスタイルには合ってるかも)

 現実世界で武術を習っている彼女にとって、このゲームのモンクはうってつけのジョブだった。防御力を捨て、その高い機動力とプレイヤー自身の回避スキルに依存する不人気職。だが、さつきのリアル譲りの反射神経と動体視力は、それを「避けまくるチートキャラ」へと昇華させていた。

「メイちゃん!」

 賑やかな声がさつきの思考を遮った。赤髪ポニーテールのルーナ、金髪ショートボブでメガネっ娘のアリス、銀髪ロングのお下げ髪のフィリア。ギルド《クローバー》の仲間たちが、彼女のもとに駆け寄ってくる。

 ウォリアー、ウィザード、プリースト。それぞれのジョブを極める仲間たちもまた、期待と興奮で目を輝かせていた。

「見た見た!?アークウィザードだって!どんな魔法覚えるんだろー!」

 アリスが身を乗り出すようにして、ビジョンを指さす。

「私はヘヴィウォリアー!もっと攻撃特化になっちゃうな〜」

 ルーナがガハハと答える。

「私……はハイプリーストです。回復魔法の効果が上がるみたいで、嬉しいです」

 内気なフィリアが小さな声で、でも嬉しそうに報告する。

「みんなそれぞれ進化の王道を選びそうね」

 メイがそう言うと三人は頷き合った。それが最も効率的で最も「正しい」選択だ。この世界の死のペナルティは重い。失敗は許されない。

 だが――。

「でもさぁ、私たちギルド《クローバー》ってタンク役いないじゃん?」

 ルーナがぽつりと呟いた。その一言から

 彼女たちの普通じゃない「全員盾」計画が始まろうとは、この時のメイを含め、誰も知る由もなかった。

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