A
白川津 中々
◾️
Aは今年四十二となるが人として何をするわけでもなく呆けていた。
毎日上の空で、母親がうるさくいう時は近所の公園などへ足を運んではベンチに座って一日を過ごす。その表情には感情の起伏なくのっぺらぼうのようで、この世の一切合切から隔絶され、食って寝て排泄をするだけで満足する人間であった。そしてそれは、母が倒れても、変わる事はなかった。
「あ」
台所で胸を抑えたまま冷たくなっている実母を見てAはそう呟いたが、それだけだった。死体をそのままに冷蔵庫の中を漁って飲み食いし、眠くなれば眠る。いつもと変わらない、呆けた生活を続けたのだ。唯一違うのはうるさくいう人間がいなくなったため、一日中家で過ごすようになった事だろう。とはいえ食うものがなくなってからは母親の財布を持って買い物に出かけ、店の人間の眉を顰めさせるのだった。
それは死体の腐乱が始まり異臭が周囲に漂うまで続いた。隣人からの通報によって母親の死が明るみとなり、Aは施設へ身を寄せる事となった。
Aの生活はそこでもやはり変わらず、ただひたすらに呆けていた。食って寝て排泄する毎日。周りの入居者からは白痴と蔑まれ、時に罵倒さえ響いたが、Aは怒る事もなく事もなく過ごしている。言葉の意味を理解しているのかさえ定かではない。ただ静かに、何もなく、佇むだけ。彼の生涯はきっと、それに尽きるのだろう。
Aは今日も、呆けるばかりである。
A 白川津 中々 @taka1212384
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