第5話

 久々に糞が出た。尿か糞か迷うような代物だが肛門から出てきたから糞なのだろう。俺は尻を拭いて個室を出た。塵紙にはまた血が付いていた。

 下水道台帳図を手に入れる方法は二つあるが、電子データを探す方法はリスクが高すぎた。統制AIの勘は凄まじくPC上で反社会的と思しき行動を取ると一瞬で補足される。となれば残りの方法として、何十年も前のダンボールを漁って紙ベースの資料を見つけるしかない。

 昨日所長の飲み物に少量の禁制紙煙草の吸殻汁を混ぜたのが功を奏したのか所長は朝から休みを取っていた。コピ・ルアクの珈琲なぞ飲んでいるからバチが当たったのだろう。他の従業員たちも羽目を外していたから、俺が数時間席を外したところで誰も気にはしないだろう。

 ほとんど足を踏み入れたことがなかったが、地下の資料室は黴臭く陰気な雰囲気に満ちていた。

 資料室には完全電子化前の時代の時代錯誤な段ボール箱が所狭しと並べられており、有難いことに年度別に整理されていた。下水道台帳図は当該地域の下水道が整備された時期の段ボール箱を開ければ見つかるはずだった。

 資料探しに熱中し、ようやく目的の下水道台帳図を探し当てたときには二時間近くが経過していた。俺はあまりに熱中しすぎていた。振り返ると監視ドローンが資料室内に入り込んでおり、俺の心臓は一瞬止まり睾丸が縮こまった。

 ドローンに搭載されたカメラは俺の手元を映していた。

 冷静になれ。俺は自分に言い聞かせながら、何ごともなかったようにドローンの横を通り過ぎ、資料室をあとにした。ドアの鍵を閉めて閉じ込めてやろうかと思ったが、これ以上怪しまれてはまずいとそのままにしておいた。

 それにしてもなぜドローンが? やはり所長が俺の動きを警戒して中央に報告している? いずれにせよ後戻りできないところまで来ている可能性があった。

 ……後戻りできないところまで、来ているっぽかった。

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