◆実話怪談詰め合わせ◆〔病院編〕
茶房の幽霊店主
第1話 病院での体験談
※(短めの三篇。お好きなものを飲みながら、ひとつまみどうぞ。)
【右肩の痛み】
※(友人と友人のお母さんの体験談です)
※(プライバシー保護のため地域・固有名詞などは伏せています)
※※※※
母が高血圧のため、夜に意識障害とけいれんを伴い
倒れることがありました。
救急車を呼んで搬送され、別の受け入れ先での緊急入院。
安静に過ごすため一週間ほど病院生活になったのですが、
二日目あたりから『右肩が痛い』と言い始めました。
『どんな風に痛むの?』
『最初、軽い筋肉痛かと思っていたけど、
少しずつ痛みが強くなって、右肩から二の腕外側に広がってきている』
主治医にそのことを話しましたが、関連性のある病気は見つかりません。
本人が感じるのはとても強い疼痛のようです。
※※※※※
その後、血圧も安定して日常生活へ戻れそうだったので
簡単に荷物の整理をしていました。
ベッドが右の壁に寄せてあったのですが、隙間へ紙と筆記用具が
入り込んでしまい、ベッドを手前に引っ張って少し壁から離した時です。
『……なに、これ』
母の呟きで、空いた隙間を見て驚きました。
右壁にびっしりと何十枚のも湿布が貼り付けられていたのです。
乾いて干からびていましたが、以前この部屋を使っていた
患者が貼り付けたのだろうと思われました。
掃除をする人は気が付かなかったのだろうか。
あまりに気味が悪い光景だったので、すべて剥がして処分しました。
その後、何がどうなったのか『右肩の痛み』は消えました。
『前に寝ていた人が、右肩を痛めていたのかな』
『使用済みの湿布から痛みが伝染することなんてあるの?』
残りの数日、何事もなく過ごし母は退院して家へ帰りました。
◇◇◇◇◇
【キラキラと】
※(友人のお母さんの体験談です)
※(プライバシー保護のため地域・固有名詞などは伏せています)
※※※※※
長年看護師として勤め、いよいよ年金暮らしになる年齢が近づき、
早めの引退を決意表明してから、出勤する日数も減らしていました。
『この際、体の悪いところを治しておこう』そう思い立ち、
長い時間をかけて痛めていた膝の手術を受けることにしました。
前々から『いつか歩けなくなるな』と思いながらも、
体を騙しながら仕事を優先してきましたが、その日々も終わろうとしています。
動けるうちにあちこち旅行をして温泉巡りをしたい。
その夢を叶えるための第一歩です。
すべての準備を済ませ自分で手続きをし、滞りなく入院しました。
手術は成功し、もう少しだけ自力で歩いて生活できそうです。
※※※※※
手術後なので個室で寝ていたのですが、隣の部屋が重症患者だったようで、
夜明け前にバイタルモニターが異常を示したアラームが鳴り、
出入りする看護師の足音や、患者の名前を呼ぶ声が壁越しに聞こえてきました。
同じような場面を何度も経験してきたので、
“これはもしかしたら、回復は難しいかもしれないな”
様子を伺いながら天井を見上げていた時、
キラキラと光るものが自分の頭の上に降り注いできたのです。
“え!?……ちょっと待って、違うから!私じゃないから!”
この光が何であるのかは分かりませんが、
痛み止めの点滴が切れて眠れなかったため、意識がはっきりしていました。
必死に『私ではない』を心の中で繰り返し唱えていました。
すると【キラキラしたもの】は
壁をすり抜けて隣の部屋へ移動していきました。
朝になって、お隣の患者さんは亡くなっていたそうです。
キラキラは部屋を間違えてやってきたのでしょうか。
だとしたら、結構おおざっぱなお迎えだなと思いました。
その後、友人のお母さんは念願だった温泉巡りをしています。
◇◇◇◇◇
【白衣を着たひと】
※(店主の体験談です)
※(プライバシー保護のため地域・固有名詞などは伏せています)
健康優良児から一転、15歳から20歳までの間、
365日中360日が体調不良となり、その原因は『重度の貧血』でした。
失神することもあったので、何度か精密検査を受けていたのですが、
病気らしい病気は見つかりませんでした。
造血剤・鉄剤・漢方・食事療法を続けていたのですが改善に至ることなく、
実家を出て自立した生活を始めて、なぜか自然治癒しました。
※※※※※
検査ざんまいの期間で、
『胃が悪いので鉄が上手く吸収できないのではないか』と、
要因を探すため胃カメラの検査を受けることになりました。
はじめての胃カメラ検査でかなり緊張していました。
検査内容の説明を受け、廊下の椅子で待っていた時、
足早に目の前を横切って、誰も使用していない暗い部屋へ
白衣を着た医者らしき人物が入って行きました。
着ている白衣には広範囲に血液らしきものが付着しており、片足を引きずっていたので、
事故か何らかのトラブルにでも遭った後という姿です。
検査の順番が来たので、戻ってきた看護師さんに急いで告げました。
『さっき、その部屋にケガをした先生が……入って行ったのですが』
『……ああ。緊張してるのかな?』
看護師さんは一瞬だけ目を見張りましたが、ふわっと誤魔化しました。
麻酔を口に含んでいると、慣れた手つきで筋肉注射が打たれ、
薬が効いているのを確認してから検査がはじまります。
胃の底に全体を滑らせて胃の入口を調べる時は、
【イカの一本釣り】にされたかのような衝撃でした。
検査が終わった後、麻酔の効果はまだ続いていて、
よだれが止まらないためタオルで口元を拭いていたのですが、
『話そうとすると口の中や舌を噛んで危ないから、
しばらく力を入れずに唇を軽く閉じて安静に。【先生】を見たとしても、
それ以上は何も起こらないから安心してね』
看護師さんはそれだけ言い残して立ち去って行きました。
こちらは、唇が麻痺していたので何も聞き返すことはできませんでした。
◆実話怪談詰め合わせ◆〔病院編〕 茶房の幽霊店主 @tearoom_phantom
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