闇の迷将

濵川雄平は配信者軍の将官であり、名将ムカキン上級大将とよく比較される。


もっとも雄平が一方的にムカキン将軍をライバル視しているだけであり、配信者としても将軍としても戦績では天と地ほどの差があってなおかつ開く一方である。


ムカキン将軍は配信者軍を結成するまでスーパーでバイトして生活費を稼ぐなど、下積みをしており、ウール駐屯地に行けば彼がいると言っても過言ではない。


雄平の階級はようやく大将に昇進したばかりで、今阪和線の電車で同行している原田翔吾大将の方が8つも若いのに先任である。


『信太山〜信太山〜』

いかに紀州路快速が日根野以南の各駅に停まろうともここ信太山は日根野駅どころか和泉府中駅より北なので停まらないが、大阪府最後の遊郭街がある。


翔吾はその遊郭街、信太山新地へ雄平を連れて行き、筆下ろしをさせようというのである。


「愛してる相手とじゃないと嫌だで」

駄々をこねる雄平に対し、翔吾はこう返す。


「お前が若い女性将校に性欲を剥き出しにしてるからだ!」

実際、雄平のストーカー&セクハラ行為は深刻で、貝塚駐屯地全体の問題になっていた。


「それに……」

翔吾のこの言葉で戦慄する雄平。

無理もない。神奈川駐屯地を管轄している朝霞肇大将から申し出が来たのは翔吾が披露宴をしたときだった。


その際に私服着用&祝儀なしの雄平が乗り込んで赤っ恥をかいたが、それでも朝霞将軍は神奈川の部隊に来てほしいと言い、しかも彼の精兵部隊に配属させたいという。

対する雄平はライバル視している川内豊明中将を朝霞将軍の部隊から更迭させる条件を叩きつけた。


豊明は絵に描いたようなチー牛顔で陰謀論気質が雄平に通じ、互いに大嫌いだったし、向こうからは『カラオケ0人が何だ!!』と貶されている。


「川内の奴は今、中国大陸の寧波へ従軍してるってよ」

雄平にしては『あんな奴が!』という心境だが、豊明の方は出陣前に筆下ろしをしており、自分の方が4つも年嵩なのに『見たか濵川!!』と、嫌味ったらしく『ほしめて』いた。


「ようやく着いたぞ」

着いたのは何の変哲もない旅館。

しかし、ここはスタンドこと置屋から娼婦を呼ぶに重要な拠点である。


「シャワー浴びとけ。嬢に粗相するなよ」

渋々シャワーを浴びた雄平。

浴衣に着替えて15分程度で嬢ことキャストが来た。


しかし……。

「ごめんなさいっ!!お代はいりませんっ!!」


せっかく雄平好みの地雷系キャスト『りあ』を指名したのに筆下ろしそのものが成り立たなくなってしまった。


もっとも、遊女から筆下ろしを断られたのは彼の他にミソジニスト軍の木原信輝将軍もそうで、雄平がどれだけ嬢から嫌われていたか、が恐ろしい。


「翔吾、お前のせいだで!お前のせいでオラとゾット軍の面目丸つぶれだで」

雄平は翔吾に全責任を押し付けたが、翔吾の側からすれば『お前にあるその他罰性がゾット軍ことお前の部隊全体の風紀を乱してるんだよ!』と唾棄したくなる心境だった。


いくら雄平の副官として大宰府姉妹が気を遣ってくれるといってもこの他責性では軍政、すなわち軍部隊全体の運営自体が難しい。


一方のムカキン将軍は故郷の新潟県上越市で凱旋イベントを開催したくらいである。

彼がカップ麺『ラーキン』を出せば毎回売り切れたくらい人気の配信者兼軍人であり、反社会性のある翔吾の出したラーメン『ラーゴン』も『ラーキン』に引けを取らなかったし、2人揃って前澤圭一大将の出したラーメン『ラーケイ』を大破している。


と、いうより圭一が詐欺師気質であり、ホスト然としている圭一の誕生日は6月17日。

翔吾の誕生日は9月18日で2人は同い年なだけに翔吾としても対抗意識がある。


夜が明けて、朝食を食べる2人。

「男となんて食べたくないだで」

「そんなこと言ってると大宰府姉妹からも逃げられるぞ」


荷物を整えているときに2百人程度の兵士に旅館を包囲された。


「お迎えにあがりました」

「おう北条。よく来たな」

迎えの部隊を指揮する北条清夏大佐は雄平の苦手とする相手であり、逃げる彼の襟首をつかんだのは翔吾だった。


雄平を指して『今、彼が障害者であると確信しました』と言ったセクシー女優軍の退役将校である桃井梓少佐とともに彼に対してキツく当たるのが清夏だった。


「司令、私も居ます」

どう見ても朝駆け。しかも仕事で来たのが丸分かりな将校は雄平の副官である大宰府姉妹における姉の方、玲奈だった。


「行きますよ、司令!油を売っている時間なんてありません!!」

雄平は玲奈に引きずられ、装甲車で鳳駅へ連れて行かれた。


「『オフゼロ将軍』&『貝塚竿竹土竜』の汚名は今年で返上ですからね!!」

助手席で玲奈に叱られる雄平を後から見送った翔吾は苦笑した。


しかも、雄平達が筆下ろしに行っている間に玲奈の妹、梨沙は別働隊を大阪市の梅田や日本橋へ回していた。


「オラは絵なんかに興味はないだで!!」

「司令は千種みのり先生とクレハ先生、珈琲貴族先生、ほしとラッキー先生、椎名鯛先生、西又葵先生、鈴平ひろ先生、どじろー先生、メツブシ先生、桜湯ハル先生、飛鳥しのざき先生、てんまそ先生、カントク先生、Tony先生、七尾奈留先生、たにはらなつき先生、鷹乃ゆき先生、かゆらゆか先生、ひさまくまこ先生、二三月そう先生、湊ゆう先生、めがねぃ先生、有葉先生、Yan-Yam先生、藤真拓哉先生、秋空もみぢ先生、三月先生のイラストでも見て頭を冷やしてください!!」

雄平は大阪日本橋で大宰府姉妹からしごき倒され、貝塚駐屯地の司令室でSMプレイまで食らってしまった。


その後、彼は少佐に降格されて江田島奪回作戦に従軍させられた挙句に最前線で戦わされ、敵軍であるミサンドリストにとってありがたい的となってしまう。


討ち死にした彼を悼んだのは上級大将に昇進した大宰府姉妹だけだった。

但し、しつけ足りなかったことに対する後悔と一体である。


ムカキン将軍が配信者軍における『光の名将』なら雄平は『闇の迷将』であると後世の嘲りを買った。

しかも、撮り鉄軍の松原大介少佐まで引き合いに出され、『濵川雄平は同類の松原大介に度胸で負けた』と、まで嘲られている。

大介は歌舞伎町や六本木の立ちんぼ女性を抱き、性病をもらっているのである。

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